「GND」の解説

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2022年04月06日 更新。
用語:GND
用語の読み方:グランド
略語の完全な表記:ground
同義語・類義語:グランドグラウンド
このページで解説している他の用語:基準電位GND電位グランド電位グラウンド電位電位ベタベタ面ベタGNDベタグランドベタグラウンドGNDプレーングランドプレーングラウンドプレーン

注意:電子回路を収納する金属筐体(あるいはその電位)の事、または金属筐体を大地に設置する事をFG(フレームグラウンド)と呼びますが、この記事ではFGは扱いません。この記事では、電子基板上の基準電位となるSG(シグナルグラウンド)について説明します。

GNDとは、電子回路の中で、信号の電位の基準になる配線の事を指します。その回路の信号の電圧は、GNDを基準に測られます。直流電源を1つだけ使う回路の場合、その電源の-側の配線がGNDになる事が多いです。

GNDは、グランドまたはグラウンドと読みます。

GNDの電位は、回路の信号電圧の基準になる電位ですが、これを基準電位あるいはGND電位といいます。

目次

1. 電圧と電位 … 1ページ
2. 電位とGND … 1ページ
3. GNDの記号 … 1ページ
4. 電圧と電位の混同 … 1ページ
5. GND配線の低インピーダンス化とベタGND … 1ページ

1.電圧と電位

GNDの説明をする前に、電圧電位の関係について簡単に説明します。

図1、2個の電池と2本の抵抗で構成される回路
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図1、2個の電池と2本の抵抗で構成される回路

図1に示す、3[V]と5[V]の電池と300[Ω]と100[Ω]の抵抗で構成される回路の電圧を考えてみます。この回路には4本の配線があります。それらの配線上の点を、図に示す様に点A~点Dとします。

参考:この記事では、単位を角括弧でくくって書いています。5ボルトは、5Vではなく、5[V]と表示しています。

電圧は、電子回路内の2点(2つの端子あるいは2本の配線)の間に定義される量です。図1の回路に発生する全ての電圧を考える場合、点A~点Dの4点から2点を選ぶ組み合わせの数、すなわち4C2=4×32×1=6点の電圧を考える必要があります。(図2参照)

図2、回路に発生する全ての電圧
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図2、回路に発生する全ての電圧

B点から見た(B点を基準にした)A点の電圧をVABと表記する事にすると、図2に示す様に、VAB=6[V]、VAC=8[V]、VAD=3[V]、VBC=2[V]、VDB=3[V]、VDC=5[V]と6つの電圧が発生している事が分かります。

注:この電圧の表記法では、VBAなど、図2にない電圧も定義できてしまいますが、VBAVABは、同じ電圧を、2つの端子の内どちらの端子を基準に測っているかが違うだけですので、VBA=−VAB=−6[V]と、図2に表記されている電圧の正負を変えるだけで求まります。

この例に示す様に、4本の配線の回路で6つの電圧を考えなければなりませんが、さらに配線の数が増えると、考えなければならない電圧の数が、配線の数の増加の度合い以上に増えてしまいます。

参考:例えば配線が5本の場合は、5C2=10個の電圧を考える必要があり、配線が10本の場合は10C2=45個の電圧を考える必要があります。配線の数が100本になると、100C2=4950個もの電圧を考える必要があります。

しかし電位を使えば、回路の電圧の発生の状態を、もっと少ない数で表す事ができます。

電位は、回路中の1点(1つの端子あるいは1本の配線)を基準にして測った、ある点の電圧の事です。

参考:電気工学や電子工学では、ここで説明した様に、電位を「基準点を1点に定めた際の、各点の基準点から見た電圧」と考えるのが普通ですが、物理学では逆に、「1[C]の電荷を置いた時の、その電荷の位置エネルギー」と電位を先に定義し、電圧を2点間の電位の差と考える方が普通です。電圧は電位の差で定義されるので、物理学では電位差と呼ばれる事があります。

図2の回路において、例えば点Cを基準にする事に決めると、同図に書き込まれている電圧(VABVACVADVBCVDB、およびVDC)の内、VACVBCおよびVDCの3つが電位になります。

点Aの電位をVA、点Bの電位をVB、点Dの電位をVCと表すと、VA=VAC=8[V]、VB=VBC=2[V]、VD=VDC=5[V]となります。なお、点Cの電位VCは、点Cから見た点Cの電圧を意味しますので、0[V]になります。この様子を図にまとめたのが図3です。

図3、点Cを基準にした時の各点の電位
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図3、点Cを基準にした時の各点の電位

同じ図1の回路でも、電圧を考える場合は6種類の電圧を考える必要があり、電位を考える場合は3種類の電位(VC=0[V]は自明なので、それを除いた3種類)を考えるだけで済む事が分かります。点C以外の点を基準にした電圧は、2点間の電位の差で求まります。例えばVABは、VAB=VAVB=8−2=6[V]と求まります。

参考1:同様に、VADVDBは、それぞれVAD=VAVD=8−5=3[V]、VDB=VDVB=5−2=3[V]と、2点の電位の差で求まります。

参考2:回路に発生する電位の数は、基準にする点の電位は0[V]で自明なので除くと、配線の数から1を引いた数になります。配線が5本なら電位の数は4、配線が10本なら電位の数は5、配線が100本なら電位の数は99となります。同じ配線数の回路で考えると、電位の数は電圧の数より小さくなります。配線数が大きくなるほど、電位の数と電圧の数は加速的に差が付いていきます。

2.電位とGND

前の章で説明した様に、基準の点を1つ決めて、回路上の各点の電位を求めれば、回路の電圧の分布を少ない数で表せて便利です。しかし、それだけではなく、回路中の1点を基準点にして、回路上の全ての信号の電圧を、基準点から見た電圧(すなわち電位)で表す様にすると、信号電圧の取り扱いが簡単になります。

アナログ信号処理回路を例に、信号電圧の基準を回路中の1点に決めて設計する方が、話が簡単になる事を説明します。

図4、加算回路の記号
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図4、加算回路の記号

この記号が加算回路の記号として広く使われている訳ではなく、この記事中でこの記号を加算回路の記号として使っているだけです。

図4に示す記号は、2つの入力電圧を足した電圧を出力する加算回路を表す記号だとします。この加算回路には、V+、V−、INA、INB、OUTの5つの端子があります。V+には、加算回路を動作させための電源の+側端子を接続します。V−には、電源の-側端子を接続します。INAとINBは、入力信号を入力する端子です。OUTは出力信号が出てくる端子です。後で電圧の記号を簡単に記述するできる様に、これら5つの端子に、図に示す様に、点A~点Eの記号を付けておきます。

ここで、2つの入力電圧と1つの出力電圧は、すべてV-端子(点B)を基準に定義されているとします。

INA端子に入ってくる信号の電圧をVINAとすると、VINAはV-端子(点B)から見たINA端子(点C)の電圧ですので、VCBとも表すことができます。(2点間の電圧を、前章と同様、Vの後に、小さく2点の名称を書く事で表しています) 同様に、INB端子の電圧VINBとOUT端子の電圧VOUTは、それぞれVDBVEBとも表すことができます。

この加算回路の働きは、2つの入力電圧を足した電圧を出力する事ですから、VOUT=VINA+VINBが成立します。

図5、2倍の増幅回路の記号
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図5、2倍の増幅回路の記号

この記号が2倍の増幅回路の記号として広く使われている訳ではなく、この記事中でこの記号を2倍の増幅回路の記号として使っているだけです。

また図5は、入力電圧を2倍に増幅して出力する増幅回路の記号だとします。この増幅回路には、電源の+側端子を接続するV+端子と、電源の-側端子を接続するV−端子と、信号を入力するIN端子と、増幅後の信号を出力するVOUT端子があります。また、これら4つの端子に、図に示したように、点A~点Dの記号を付けました。

この回路において、入力端子の電圧VINと出力端子の電圧VOUTは、共にV−端子(B点)を基準に定義されているものとします。つまり、VIN=VCBVOUT=VDBが成立します。

この増幅回路の働きは、入力信号を2倍にして出力する事ですから、VOUT=2VINが成立します。

次に、図4の加算回路と図5の増幅回路を用いて、2つの入力電圧V1V2を入力すると、2(V1+V2)という数式で表される電圧を出力する回路を作る事を考えます。(図6参照)

図6、作りたい回路のブロック図
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図6、作りたい回路のブロック図

加算回路も増幅回路も共通の直流電源を共有し、さらに入力電圧V1V2も、出力電圧V3も、電源の-側端子を基準に定義するものとすると、図7の回路でV3=2(V1+V2)となる回路が構成できる事が分かります。

図7、できた回路
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図7、できた回路

この様に、全ての信号電圧の基準が、1本の線(この場合は直流電源の-側の端子につながる線)を基準に定義されていれば、加算回路と2倍の増幅回路を縦続接続する事で、V3=2(V1+V2)となる回路が簡単に作れます。

参考:ある回路の出力端子を別の回路の入力端子の接続するタイプの接続を、縦続接続(じゅうぞくせつぞく)といいます。

しかし、もし2倍の増幅回路の入力電圧VINと出力電圧VOUTが、図8に示す様に電源の+側端子を基準に決められていたら、加算回路と2倍の増幅回路の間に、電圧の基準点を変換する回路を設ける必要が出てきて、回路設計が複雑になります。

図8、+側端子を基準に入力電圧と出力電圧が定義された2倍の増幅回路
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図8、+側端子を基準に入力電圧と出力電圧が定義された2倍の増幅回路

この様に電源の+側端子の電圧を基準に電圧を決めていると、-側端子を電圧の基準に設計された加算回路と直接接続できなくなります。

この様に、信号電圧の基準点を、電源回路の一方の端子に決めて設計すると、回路設計がシンプルになりますので、通常その様にします。この時選んだ基準点がGNDです。(図7の回路の場合は、直流電源の-側端子がGNDです)

直流電源を1つだけ使う回路の場合は、電源の-側の端子をGNDにするのが一般的です。

余談1:もちろん、電源の+側端子をGNDにしても、回路設計は問題なくできます。しかしほとんどの場合電源の-側端子をGNDにするのは、もし+側端子をGNDにしてしまうと、信号電圧が全て負(または0)の電圧となり、直観的でなくなるからではないかと筆者は推測しています。ほとんどの回路では、2つの電源端子の電圧が取り扱える電圧の上限と下限になります。

余談2:バイポーラトランジスタが使われ始めた当初は、NPNトランジスタよりもPNPトランジスタの方が性能が良く、PNPトランジスタがよく使われていました。PNPトランジスタの基本的な増幅回路は、一番電圧の高い端子を基準電圧として動作するため、この時代は直流電源の+側端子をGNDとして回路設計する事がよくありました。

3.GNDの記号

回路図内で、どの配線がGNDかを示すには、図9または図10の記号を、GNDの配線に接続する事になっています。

図9、GNDの記号(その1)
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図9、GNDの記号(その1)
図10、GNDの記号(その2)
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図10、GNDの記号(その2)

使用するGND記号を、どちらか一方の記号に決めて使えばいいのですが、図9の記号を、この記事で説明しているシグナルグラウンド(信号電圧の基準点)の意味で使い、図10の記号を、フレームグラウンド(金属筐体)の意味で使うという風に使い分ける事もあるので、仕事で回路図を書く場合は、その会社や業界で、GND記号にどういう取り決めがあるのかを確認する必要があります。

図7の回路のGNDを、図9のGNDの記号を使って明示すると、図11の様な回路図になります。

図11、GND記号を使って図7の回路のGNDを明示した例
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図11、GND記号を使って図7の回路のGNDを明示した例

回路図中に同じ種類のGND記号を複数書くと、それらのGND記号がつながっている線は、全て配線で接続する事になっているので、図11の回路図は、さらに図12の様に書き換えられます。

図12、GND記号を複数使ってGNDの配線の記入を省略した例
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図12、GND記号を複数使ってGNDの配線の記入を省略した例

余談になりますが、電源の配線もGNDの配線と同様、図13または図14に示す記号を使って省略して書けます。

図13、電源線の記号(その1)
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図13、電源線の記号(その1)
図14、電源線の記号(その2)
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図14、電源線の記号(その2)

参考:複数の電源線を使う場合は、その電源線の電圧(電位)や名称を、これらの記号の横に書いて区別します。

図13の記号を使うと、図12の回路図は、さらに図15の様に書き換えられます。

図15、電源線の記号を使って電源線の記入を省略した例
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図15、電源線の記号を使って電源線の記入を省略した例

電源に接続される部品は非常に多いため、電源やGNDの配線の表記を、電源線やGNDの記号を用いて省略すると、回路図が見やすくなります。

参考:図11の回路は部品数が少ないため、電源やGNDの配線の表記を省略して書いた図15と比較しても、あまり回路図の見やすさに差がないと感じられるかも知られません。しかし、もっと部品の多い図16の回路図と、それを電源やGNDの配線の表記を省略して書き直した図17の回路図を比較すると、図17の方が見やすくなっている事を実感できるでしょう。

図16、4種類の部品を縦続接続した回路
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図16、4種類の部品を縦続接続した回路
図17、電源やGNDの配線の表記を省略して図16の回路図を書き直したもの
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図17、電源やGNDの配線の表記を省略して図16の回路図を書き直したもの

電源やGNDの配線の表記を省略すると、信号線がどの様に配線されているかが分かりやすくなります。

4.電圧と電位の混同

GNDを基準としたある点の電圧は、その点の電位ですが、電子回路の話をする場合は、電圧の測定をGNDを基準にして測定する事が多いので、GNDを基準とした電圧の事も電位とは呼ばずに、単に電圧と呼ぶ事が良くあります。例えば「入力端子の電圧」は、正しくは「入力端子の電位」あるいは、「GNDを基準とした入力端子の電圧」と呼ぶべきなのですが、実際には「入力端子の電圧」という表現もよく使われます。

電圧という言葉が本来の電圧の意味でも、電位の意味でも使われるのはややこしい様に思われるかも知れませんが、「点Aの電圧」という具合に1つの点(端子、配線)しか参照していない場合は、電位の意味で使われており、「点Aの点Bを基準にした電圧」や「点Bから見た点Aの電圧」や「点Aと点Bの間の電圧」といった具合に、2つの点(端子、配線)を参照している場合は、本来の電圧の意味で使われているので、どちらの意味で電圧という言葉が使われているかの見分けは、難しくありません。

5.GND配線の低インピーダンス化とベタGND

配線は、理想的には両端のインピーダンスが0[Ω]になるべき物ですが、実際の配線にはわずかに抵抗もありますし、配線に電流が流れれば配線の周囲に磁界(磁場)が発生する影響で、わずかにインダクタンスもあります。GNDの配線は、どこをとっても電位が0[V]になるべきなのですが、実際にはインダクタンスのある配線に電流が流れますので、GND配線の部分によって、電位がわずかに高い所と低い所ができてしまいます。

参考:インピーダンスは、電流の流しにくさを表す数値です。抵抗値の単位と同じΩ(オーム)という単位を使います。直流の回路では、インピーダンスは抵抗値と同じ値となります。交流の回路では、インピーダンスは抵抗値だけではなくインダクタンス(コイルの働きの度合いを表す数値)の影響を受けます。

電子回路はGND電位を基準に信号電圧を決めていますので、GNDの配線の場所によって電位が異なる様では、正確に信号電圧を決める事ができません。(図18および図19参照)

図18、理論的な分圧回路の動作
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図18、理論的な分圧回路の動作

この回路は、直流電源の5[V]の電圧を、20[Ω]と30[Ω]の抵抗で分圧する回路です。この回路の動作を理論的に計算すると、回路には0.1[A]の電流が流れ、2本の抵抗の中点の電位は3[V]になります。

理論的な計算では、配線の抵抗は0[Ω]だと仮定しますが、実際には0[Ω]の配線は存在しません。

図19、GNDの配線の抵抗を考慮した分圧回路の動作
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図19、GNDの配線の抵抗を考慮した分圧回路の動作

GNDの配線の抵抗が0.1[Ω]だと仮定して、2本の抵抗の中点の電位を計算した例を示しています。本当は直流電源の+側の配線や、2本の抵抗間の配線にも抵抗がありますが、話を簡単にするために、これら2本の配線の抵抗は無視して計算しています。

GNDの配線の0.1[Ω]の抵抗は、赤色で記入してあります。点Aと点Bは、GNDの配線の両端の点を表しています。図から分かる様に、点Aと点Bでは、同じGNDでありながら、0.01[V]の電位の差があります。20[Ω]と30[Ω]の抵抗の中点の電位は、A点を基準とすると3.004[V]となり、B点を基準とすると2.994[V]となります。さらに、配線の中間の点(A点とB点の間の点)を基準に取ると、2本の抵抗の中点の電位は、2.994[V]と3.004[V]の間の値になります。この様に、GNDの配線に抵抗があると、電位の値が曖昧になってしまいます。

Wikipediaの電気抵抗率の比較のページによると、銅の抵抗率は1.68×10-8[Ω・m]です。(銅は配線の材料としてよく使われています) この値を使って直径0.2[mm]の円柱状の銅線の1mあたりの抵抗値を計算すると0.535[Ω/m]となります。0.1[Ω]の抵抗値は、この銅線が18.7[cm]の長さの場合に相当します。実際には、部品同士は配線だけで接続されている訳ではなく、銅よりも抵抗率が高い半田で半田付けされていますので、18.7[cm]よりも短い配線で0.1[Ω]の抵抗になります。

図19では直流の回路を考えたので、GNDの配線の抵抗だけが問題になっていますが、交流の回路になると、配線のインダクタンスの影響で、配線のインピーダンスが抵抗値以上に上がってしまいます。そのため、交流回路で、特に扱う周波数が高い場合は、GND配線のインピーダンスの影響が、図19の例よりも大きく出ます。

信号の電位が定まらない状態になると、信号にノイズや誤差が発生したり、さらにその結果、回路が誤作動したりします。

ここまでの説明で分かる様に、回路を正しく動作させるためには、GNDの配線を極力低インピーダンス化し、GNDの配線内の電位をなるべく一定に保つようにしなければなりません。そのためにはGNDの配線をなるべく短く、太くする必要があります。

プリント基板で回路を製作する場合に、どの様にGNDの配線を低インピーダンス化するかを、簡単な例を用いて説明します。

例として、図20に示す回路図の回路を、片面のプリント基板にする事を考えます。

図20、プリント基板化したい回路
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図20、プリント基板化したい回路

CN1とCN2の2つの部品はコネクタです。全ての部品はリード部品です。

GNDの配線を低インピーダンス化する事に特に配慮せずに基板の設計をすると、基板のパターンは、例えば図21の様になります。

図21、GNDの配線の低インピーダンス化に配慮せずに設計したプリント基板
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図21、GNDの配線の低インピーダンス化に配慮せずに設計したプリント基板

この図において、水色に塗ってあるのは部品です。赤色で示したのが、プリント基板の配線パターンです。片面基板にリード部品を実装する場合、たいていは、部品を実装するのと反対側を配線面にしますので、この赤色のパターンは、実際には裏面にあり、それを透視してみている図だと考えてください。

この設計では、GNDの配線が不必要に長く、また細いため、それらを改善したのが図22です。

図22、GNDの配線の低インピーダンス化に配慮して設計したプリント基板
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図22、GNDの配線の低インピーダンス化に配慮して設計したプリント基板

図21と比較して、GNDの配線を太く、短くして、低インピーダンス化をしました。信号線についても配線が短くなっています。

配線を極端に短くすると、部品を挿入しにくくなったり、半田付けしにくくなったりといった副作用もありますので、バランスを考えて配線長を決める必要があります。

図22の設計では、図21の設計と比較して、GNDの配線を太く、短くして、低インピーダンス化しました。信号線についても配線が短くなって低インピーダンス化しています。

信号線も太くする方が、回路が設計通りに動作する様になるのですが、信号線の低インピーダンス化よりもGND線の低インピーダンス化の方が重要なので、GND線だけ太くしています。GND線と信号線の線幅に差をつけた二次的な効果として、GND線と信号線が一目で区別できる様になりました。

配線を短くしたのに伴って、基板面積も減りました。基板製作のコストは、おおむね基板の面積によって決まりますので、低コスト化も実現した事になります。

図22の設計で、元の図21の設計よりはGNDの低インピーダンス化ができましたが、図22の基板は、まだGNDの配線を太くできそうです。GNDの配線を極限まで太くする様に設計したのが図23です。

図23、GNDをベタ面にしてGND配線の低インピーダンス化を図った例
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図23、GNDをベタ面にしてGND配線の低インピーダンス化を図った例

この基板は、図22と部品配置は同じですが、信号線以外の部分を全てGNDにしています。

このGNDの様に、広い面積の銅箔を基板に残した部分を、ベタ面または単にベタといいます。また、ベタ面をGNDとした場合、ベタGNDあるいはGNDプレーンといいます。

参考:プリント基板を作るためには、絶縁材料の基板の表面に銅箔を張った物(生基板)を用意します。そして、銅箔の不要な部分を腐食性の液体で溶かしてパターンを作ります。(これをエッチングといいます) 「広い面積の銅箔を残した部分」と表現したのは、銅箔のパターンが、エッチングされずに残った部分だからです。

GNDをベタGNDにすると、GNDが低インピーダンス化されますし、信号線の近くにGNDがあると、シールドの効果が出て、信号線にノイズが乗りにくくなります。特に高速・高周波数の回路では、ベタGNDにするかしないかで、ノイズ耐性が全く違ってきます。

注意:あまりにもGNDと信号線を近づけると、信号線とGNDの間の寄生容量が増えるため、高速・高周波数の回路では、波形に歪が発生します。低周波の回路では、この様な心配はありません。

周波数の高い信号や高速の信号を取り扱う回路では、両面基板や多層基板(表面だけではなく、基板の内側にも配線層がある基板)を使い、かつ1つの銅箔の層を、丸々ベタGNDに使う設計が行なわれます。

なお、図21のパターンから図22のパターンへ変更し、さらには図23のパターンに変更するという具合に、GNDの配線を低インピーダンス化して、GND配線内で、場所によって電位の高い所と低い所の差が極力できない様にする事を、「GNDの強化」とか「GND電位の安定化」と呼ぶ事があります。

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