2019年07月18日 | 更新。 |
フィルタ回路は単にフィルタあるいは濾波器(ろはき)とも呼ばれ、色々な周波数成分を含む信号から、目的の信号を含む周波数成分を取り出すために使われる電子回路の事を指します。
フィルタ回路は、取り出す周波数によりハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、バンドエリミネーションフィルタなどと分類されます。
電気的な信号には、様々な理由でノイズ(雑音)が混入する事があります。必要な信号成分と、ノイズ成分の周波数が異なっている時、ノイズ成分を減衰させ、必要な信号成分のみを取り出すために使うのが、フィルタ回路の主な用途です。
フィルタ回路において、信号を通過する周波数帯域を通過帯域といい、信号を減衰させる周波数帯域を阻止帯域といいます。また、通過帯域と阻止帯域の境目となる周波数がカットオフ周波数です。
つまり、必要な信号成分が存在する周波数帯域をフィルタ回路の通過帯域とし、ノイズ成分が存在する周波数帯域をフィルタ回路の阻止帯域とすれば、必要な信号のみを取り出す事ができます。
フィルタ回路で必要な信号成分のみをうまく取り出すには、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタなどのフィルタ回路の種類の選択と、カットオフ周波数の設定、フィルタ回路の特性の急峻さの設定が重要になります。
フィルタ回路の例として、高い周波数成分を取り出すハイパスフィルタについて説明します。
マイクでシンバルの音を録音したところ、再生するとハムノイズ(商用電源の周波数のノイズ。東日本なら50Hz。西日本なら60Hz)が入っていたと仮定します。この時の信号の周波数成分を表わしたのが図1です。シンバルの音は数kHz~十数kHzの高い周波数帯域(周波数の範囲)に分布しています。一方で、ハムノイズは50Hz(東日本の場合)と低い周波数です。
後述するハイパスフィルタを使うと、設定した周波数以下の成分を減衰させる事ができます。つまり、設定した周波数が適切であれば、ハムノイズのみを減衰させて、シンバルの音のみを取り出す事ができるのです。
信号を通過する周波数帯域を通過帯域といいます。また信号を減衰させる周波数帯域を阻止帯域といいます。高い周波数の成分のみを通過させるハイパスフィルタは、阻止帯域よりも高い周波数側に通過帯域があるフィルタと考える事ができます。
通過帯域と阻止帯域の境目の周波数をカットオフ周波数と呼びます。図2は通過帯域、阻止帯域およびカットオフ周波数の関係を示した図です。
図2のグラフの縦軸は、利得といい、フィルタ回路の出力電圧をフィルタ回路の入力電圧で割ったものです。利得は、信号の通過しやすさを表わしています。利得が1なら信号は完全にフィルタ回路を通過し、利得が0なら信号は完全にフィルタ回路で減衰してしまいます。
フィルタ回路で効率よく不要な周波数成分(ノイズ)を減衰させるためには、図2の青線で示した特性を持つフィルタ回路があれば理想的です。しかし現実的には、カットオフ周波数より少しでも通過帯域寄りの周波数なら完全に信号を通過し、カットオフ周波数より少しでも阻止帯域寄りの周波数なら完全に信号を減衰する様な、鋭い特性のフィルタ回路を実現する事はできません。現実のフィルタ回路は、図2の赤線で示した様な、カットオフ周波数付近で少しなまった特性になるのです。
この様に、現実のフィルタ回路では、通過帯域と阻止帯域の境界があいまいになります。そこで便宜上、利得が通過帯域の平坦部の12(約0.707。デシベル値に換算すれば-3dB)となる周波数をカットオフ周波数と呼ぶ事が多いです。そして、その様に定義したカットオフ周波数を境に、通過帯域と阻止帯域を区別します。
注:カットオフ周波数は、通過帯域の平坦部と比較して、信号電圧が12倍になる周波数ですが、信号電力で考えると、12倍になる周波数です。
図1の例で考えると、50Hzと数kHzの間の周波数で、なおかつ50Hzにも数kHzにも近すぎない周波数(例えば1kHz)がカットオフ周波数のハイパスフィルタを使うと、上手くハムノイズだけ減衰させ、シンバルの音はほとんど損なわずに取り出す事ができます。
通過帯域と阻止帯域の周波数関係により、フィルタ回路はハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、バンドエリミネーションフィルタなどに分類されます。
また、これらのいずれにも相当しない特殊なフィルタ回路(くし型フィルタなど)も存在します。
以下に、代表的なフィルタ回路である、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、およびバンドエリミネーションフィルについて説明します。
ハイパスフィルタは、設定した周波数より低い周波数帯域の信号を減衰させ、高い周波数帯域の信号を取り出すフィルタ回路です。ハイパスフィルタは高域通過濾波器やローカットフィルタとも呼ばれます。また、High-Pass Filterの頭文字をとって、HPFと表記される事もあります。
ハイパスフィルタの例として、抵抗とコンデンサからなる、1次CRハイパスフィルタの回路図を図3に示します。またこの回路の周波数特性を図4に示します。
1次CRハイパスフィルタのカットオフ周波数fCは、次の数式で求まります。
例としてR=1[kΩ]、C=0.1[μF]として計算すると、fC=1.59[kHz]となります。図4の黒い線の特性のカットオフ周波数と一致している事が分かります。
ローパスフィルタは、設定した周波数より高い周波数帯域の信号を減衰させ、低い周波数帯域の信号を取り出すフィルタ回路です。低域通過濾波器やハイカットフィルタとも呼ばれます。また、Low-Pass Filterの頭文字をとって、LPFと表記される事もあります。
ローパスフィルタの例として、抵抗とコンデンサからなる、1次CRローパスフィルタの回路図を図5に示します。またこの回路の周波数特性を図6に示します。
1次CRローパスフィルタのカットオフ周波数fCは、1次CRハイパスフィルタの場合と同様、式(1)で求まります。
バンドパスフィルタは、設定した2つの周波数の間の周波数帯域の信号のみを取り出すフィルタ回路です。帯域通過濾波器とも呼ばれます。また、Band-Pass Filterの頭文字をとって、BPFと表示される事もあります。
バンドパスフィルタの例として、コイルとコンデンサの並列共振回路(LC並列共振回路)、および抵抗を用いたバンドパスフィルタの回路図を図7に示します。またこの回路の周波数特性を図8に示します。
図7のバンドパスフィルタでは、ある周波数で利得が1(0dB)になり、その周波数よりも高周波側でも、低周波側でも、利得が1より小さくなります。
利得が1になる周波数においては、コイルとコンデンサの並列共振が生じるため、その周波数を並列共振周波数(あるいは単に共振周波数)と呼びます。共振周波数以外の周波数においては、共振周波数より高周波数側でも、低周波側でも、周波数が共振周波数から離れるほど利得が小さくなります。
図7の回路の共振周波数をf0とすると、f0は式(2)で与えられます。
例として、L=1[mH]、C=10[μF]として計算すると、f0=1.59[kHz]となります。図8の黒い線や青い線の特性の共振周波数と一致している事が分かります。
なお、図8の黒い線の特性と青い線の特性とを比較すると、両者の共振周波数は一致しているものの、青い線の特性の方が急峻な特性(周波数が少しでも共振周波数と違うと大幅に利得が下がる特性)になっている事が分かります。
図7に示す様な、LC並列共振回路を利用したバンドパスフィルタの急峻さを表す指標として、Q値(あるいは単にQ)がよく使われます。Q値が高いほどフィルタが急峻になります。
Q値は英語ではquality factorと呼びますが、その頭文字のQが、しばしば名称として使われています。また、Q値を表す変数も、普通、英大文字のQを使います。
図7の回路のQ値は次の式で求まります。
図8の黒い線の条件と赤い線の条件でQ値を計算すると、前者は0.1、後者は0.103と、ほぼ同じ値になっています。赤い線は、黒い線を、形はそのままに右側に移動したものになっています。
また、図8の青い線の条件と赤紫(マゼンタ)の線の条件でQ値を計算すると、前者は1、後者は1.03と、ほぼ同じ値になっています。赤紫の線は、青い線を、形はそのままに右側に移動したものになっています。
この様に、Q値が同じ場合、共振周波数が違っても、周波数を対数目盛で表した周波数特性のグラフ上では、特性が左右に移動しただけで、同じ形になります。
この項では、バンドパスフィルタの例としてLC並列共振回路を用いたバンドパスフィルタを取り上げましたが、他にも、例えばローパスフィルタとハイパスフィルタを組み合わせてバンドパスフィルタを構成するなど、色々とバンドパスフィルタの構成法があります。LC並列共振回路(あるいはLC直列共振回路)を用いたバンドパスフィルタでなければ、Q値は定義できない事に注意が必要です。
また、信号を良く通す周波数についても、LC並列共振回路(あるいはLC直列共振回路)を用いたバンドパスフィルタでは共振周波数と呼ぶものの、その他の回路では中心周波数という用語を使う事に注意が必要です。
参考:LC並列共振回路やLC直列共振回路を用いたバンドパスフィルタでも中心周波数という用語を使います。この場合、共振周波数と中心周波数は一致します。
バンドエリミネーションフィルタは、設定した2つの周波数の間の周波数帯域の信号のみを減衰させるフィルタ回路です。帯域阻止濾波器、帯域阻止フィルタ、帯域除去フィルタ、バンドストップフィルタとも呼ばれます。また、Band-Elimination Filterの頭文字をとって、BEFと表記される事もあります。
信号を減衰させる周波数帯域が特に狭いバンドエリミネーションフィルタの事を特に、ノッチフィルタと呼びます。
用いる部品の種類により、フィルタ回路は次の様に分類できます。
抵抗、コンデンサ、コイルなど、受動部品だけで構成されたフィルタ回路をパッシブフィルタあるいは受動フィルタと呼びます。パッシブフィルタを通過した信号の電力は、パッシブフィルタの入力に接続した信号源から供給されます。そのため、パッシブフィルタは信号処理だけではなく、電源回路で雑音を取り除く用途などにも使用できます。
トランジスタなどの能動部品を含むフィルタ回路をアクティブフィルタあるいは能動フィルタと呼びます。アクティブフィルタを通過した信号の電力のほとんどは、アクティブフィルタの入力に接続した信号源ではなく、アクティブフィルタ内の能動部品から供給されます。そのため、アクティブフィルタは信号処理には利用できますが、電源回路で雑音を取り除く用途などには、電力効率の点から利用できません。