2016年10月02日 | 公開。 |
2016年10月04日 | 「訴訟費用がかさむことが和解の一因?」の章を追加。 |
2016年12月25日 | Arduino 1.8.0が公開された事を追記。 |
2016年10月1日、分裂していたArduinoの創始者のグループ(Arduino LLCとArduino Srl)が和解したと発表されました。この発表の内容を解説し、今後起こりそうな事を独自に予想します。
ニューヨークで開催されていたWorld Maker Faireにおいて、2016年10月1日に、2つに分裂しているArduino創立者陣営、Arduino LLC(arduino.cc)とArduino Srl(arduino.org)が和解し、統合へ向けて準備している事が発表されました。arduino.ccのブログにおいて、TWO ARDUINOS BECOMES ONEという記事で詳細が発表されています。
このブログ記事によると、両陣営はすでに和解契約を結んでおり、2016年末にArduino Holding(アルデュイーノ・ホールディング)を設立し、Arduinoの現行機種および将来発売される機種の、卸売りの窓口を一元化するそうです。
またそれに加え、Arduinoは非営利のArduino Foundation(アルデュイーノ・ファウンデーション、ファウンデーションは財団や基金などの意)を設立します。オープンソースのArduino desktop IDEの維持管理や、オープンソースに関するコミュニティのさまざまな支援を行うそうです。
Arduino創始者グループの分裂がユーザに与える影響についての記事でも紹介したとおり、Arduino陣営が2つに分裂した事により、Arduino IDEが1.6.Xと1.7.Xの2系統に分かれ、それぞれの系統で開発できるArduinoの機種が異なるなどの混乱が発生しています。2年ほど前にArduinoの商標権をめぐる争いで始まったさまざまな混乱が、統合により徐々に正常化されていくものと期待されます。
次の動画は、World Maker Faireで行われた、Arduino LLCのCEO、Massimo Banzi(マッシモ・バンジ)による、"State of Arduino"(Arduinoの現状)と題した講演の様子です。最初から21分あたりの所で、MassimoがArduino SrlのCEO、Federico Musto(フェデリコ・ムスト)を紹介し、共に登壇する様子が映っています。
スイッチサイエンスが公開しているブログ記事と動画によると、商標権をめぐる訴訟の弁護費用がかさみ、Arduino LLCとArduino Srlの両社の負担になっていたそうです。この負担が今回の和解の一因になったのではないかとの推測が、述べられていました。
Arduino IDEのメッセージの日本語化に協力していたり、Arduinoスターターキットの付属本の翻訳をしていたり、Maker Faire TokyoでのFederico Mustoの会見の司会を金本茂代表取締役が務めたりと、スイッチサイエンスはArduino Srlと関係の深い会社です。訴訟費用が和解の一因になったというのは、単なる憶測ではないと思われます。
先ほどの動画では、Arduino Srl側が和解に向けた提案を積極的にしていて、Arduino LLC側が今回それに応じたのではないかとも述べられています。
arduino.ccのブログでの発表は、非常に限られた内容です。HACKADAYのARDUINO FOUNDATIONという記事にも、「今決まっているのは大まかな方向性で、具体的な話はこれから」という様な話が載っています。
ここでは、両陣営の統合により、今後起こりそうな出来事をいくつか独自に予想してみます。
2016年末にArduino Holdingという会社が設立され、販売窓口を一本化すると発表されましたが、Holdingという名前から、持ち株会社だと想像できます。おそらくArduino HoldingがArduino LLCとArduino srlの2社の株式を所有し、全体の方向性を決める働きをするのでしょう。逆に言えば、Arduino LLCとArduino Srlの2社は、そのまま存続するのではないでしょうか?
両陣営が対立する前は、Arduino LLCの前身の組織はArduinoのハードと関連ソフトの開発を担当していました。またArduino Srlの前身の組織はArduinoの製造・販売を担当していました。
両陣営の対立後は、Arduino LLCはAdafruitに製造を委託し、またArduino Srlもハード・ソフトの開発を自前で行い始めました。今後、Arduino LLCとArduino Srlの関係がどう変わるのか、以前の様な分業体制に戻るのかが興味深いです。
現状では、Arduino Srlの代理店契約をしている販売業者は、Arduino LLCが販売しているArduinoの機種を取り扱えない(あるいはその逆)というような、取り扱い機種の制限が存在する様です。両陣営の和解・統合により、この様な制限がなくなるものと予想されます。
現状ではArduino IDEは1.6.Xと1.7.Xの2系統存在します。Arduino LLCが発売しているArduinoの新機種は1.6.X、Arduino Srlが発売している新機種は1.7.Xをインストールしないと開発が行えません。Arduino IDEのインストーラーは1.6.Xと1.7.Xを排他的にインストールしてしまいますから、Arduino LLCとArduino Srlの両方のArduinoを使っているユーザーは非常に開発がしにくい状況にあります。(詳しくは複数のバージョンのArduino IDEをインストールする方法を参照)
今後はArduino Foundationが一元的にArduino IDEを管理する様ですから、例えばArduino IDE 1.8.Xというように新しいバージョンができて、新バージョンではArduino LLCのArduinoもArduino SrlのArduinoも両方の開発ができる様になるのではないでしょうか。
2016年12月25日追記:
Arduino IDE 1.8.0が発表され、両陣営のArduino IDEが実際に統合されました。詳しい事はArduino IDE 1.8.0が発表され、二系統のArduino IDEが統合されるの記事をご覧ください。
Arduinoの価値は、Arduinoのマイコンボードそのものや、Arduino IDEだけによりもたらされる訳ではありません。Arduinoを始める際のチュートリアルや、プログラミングに使う関数やライブラリなどのリファレンス、ユーザーが情報を交換するためのフォーラムなどで、必要な情報が簡単に手に入る事も、Arduinoの価値をずいぶん高めています。
現在チュートリアル、リファレンス、フォーラムなどのコンテンツは、arduino.ccとarduino.orgで別々に用意されています。(とはいえ、正直言ってarduino.orgのドキュメント類は急ごしらえで、間違いも多く、読みにくいです) 今後は、Arduino Foundationのサイトができ、これらのコンテンツがそこに集約されていく可能性が高いと思われます。
Arduino LLCは、同じ機種でも米国内ではArduinoブランドで販売し、米国外への輸出品はGenuinoブランドで販売しています。( Arduino創始者グループの分裂がユーザに与える影響についてを参照) Arduino LLCとArduino Srlの間の商標権の問題が解決するなら、もうArduinoとGenuinoのブランドを使い分ける必要がなくなりますので、Genuinoブランドは消滅する可能性が高いと思われます。今Genuinoを買っておくと、レアアイテムになる可能性もあります。
Arduino LLCとArduino Srlは、双方で非常に似た機種をラインアップしています。具体的にはArduino LLCのArduino ZeroとArduino SrlのArduino M0 Proは、どちらも搭載マイコンがATSAMD21G18で、USBコネクタを2つ搭載しているなど、ほぼ同じスペックになっています。(他にも酷似した機種をラインアップしているかも知れません)
統合後のArduinoでは、両方の製品をラインアップしたままだと、混乱の原因になりますから、一方を廃止するのかも知れません。
両者のハードがどこまで同じなのかは確認していませんが、もしまったく同じコアプログラムで動作させられるなら、Arduino IDE上では、同一機種としてサポートされるのかも知れません。
この記事では、対立していたArduino LLCとArduino Srlが和解し、統合に向けた準備をおこなっている事を説明した上で、今後予想される出来事をいくつか予想してみました。統合の動きが本格化するのはこれからですが、具体的な話が今後色々と出てくると思います。その場合は、このサイトで随時報告する予定です。