1Ω程度、あるいはそれよりも小さな抵抗値を測定しようとして、うまく行かなかった経験はありませんか? このくらい抵抗値が低くなると、テスタのリード線の抵抗や、テスタのリードやターミナルの接触抵抗を合わせると簡単に0.数Ωになってしまいます。これでは抵抗の抵抗値を測っているのか、リード線の抵抗値を測っているのか分からなくなってしまいます。さらに厄介なことに、テスターリードの抵抗への押し当て方一つで、接触抵抗は変化しますから、0Ω調整したところで、なかなか1Ω未満の精度で抵抗値を測るのは難しいです。
こんな場合は、4端子法と呼ばれる計測方法を使うのが、セオリーですが、4端子法で低抵抗をきちんと計測してくれる抵抗計は高価で、アマチュアには手が出ません。そういう時に、普通のテスタを2台組み合わせて、低抵抗を比較的高精度で測定する方法を紹介します。
デジタルマルチメータ(デジタルテスタ)やアナログテスタなどの簡易的な測定器で抵抗値を測る時は、通常2端子法と呼ばれる方法を使います。
図1は、2端子法による抵抗値測定の原理図です。抵抗計の中には直流電圧計、直流電流計、直流電圧源(電池など)が含まれており、図のように結線されています。それにリード線を使って測定したい抵抗をつなぐと、その抵抗値に応じた電流が流れます。直流電圧計の測定値がV[V]、直流電流計の測定値がI[A]とすると、測定したい抵抗の抵抗値R[Ω]は、オームの法則よりR=V/Iと求まります。
この方法はとても理解しやすくていい測定法なのですが、測定したい抵抗の抵抗値、リード線の抵抗値、および接触抵抗の合計を測ってしまうという欠点があります。測定したい抵抗の抵抗値がある程度大きく、リード線の抵抗や接触抵抗が無視できる場合はいいのですが、低い抵抗値の測定の際には、誤差が生じてしまいます。この様子を次の図2に示しました。
抵抗値に誤差が出る原因は、リード線に電流が流れて、そこで電圧降下が生じるからです。電圧計を接続するリード線に電流が流れないようにすれば、正しい電圧が測定でき、抵抗値も正しく求まるはずです。この考え方に基づいた測定法が4端子法と呼ばれるものです。図3に4端子法の測定原理図を示します。
4端子法の場合、抵抗計に、電流を測定する端子が2つと、電圧を測定する端子が2つの、合計4つの端子があることが分かります。とはいえ、抵抗の求め方は2端子法と同じR=V/Iより求まります。
図3を、リード線の抵抗や接触抵抗を考慮して書き直したのが次の図4です。
この図では、抵抗や配線を、意図的に赤と青の2色で書き分けました。赤いルートは、測定したい抵抗に電流を流しているルートですので、比較的大きな電流が流れます。一方で、青いルートは抵抗の両端電圧を測定するためのルートですが、直流電圧計の内部抵抗が非常に高いため、ほとんど電流が流れません。
赤いルートに注目すると、大きな電流が流れているため、ルート上の接触抵抗やリード線の抵抗には電圧降下が発生します。しかしながら、このルートでは電圧は測らず、測定しているのは電流です。よって直流電流計は、測定したい抵抗に流れる電流を正確に表示することになります。
青いルートに注目すると、ほぼ流れる電流はゼロです。よって、このルート上の接触抵抗やリード線の抵抗では、電圧降下が発生しません。この事により、直流電圧計は測定したい抵抗の両端電圧を正確に測定できます。
以上のように、4端子法を用いると、リード線の抵抗や接触抵抗の影響を受けずに、低い抵抗値を正確に測定できます。
余談になりますが、図1の方法で抵抗値を測定するなら、直流電圧計と直流電流計の2つの計測器が必要になります。この原理のままデジタルマルチメータを作ろうとすると、電圧計測用と電流測定用の2つのA/Dコンバータが必要になりますし、また割り算の計算をするための割り算回路やマイコンなどが必要になり不経済です。そのため、通常は図1の原理のまま抵抗値を測定する事はありません。
デジタルマルチメータは通常、次の図5のように、定電流回路を用いて、測定したい抵抗に一定の電流を流し、電圧のみを測定します。そうすれば、電流を測定するためのA/Dコンバータは不要となります。また、抵抗を求めるには電圧を電流で割る必要がありますが、電流は一定ですので、電圧に定数(電流の逆数)を掛ければ抵抗が求まることになります。さらに、測定電流を例えば0.1Aのようなキリのよい数字にしておけば、抵抗値は電圧を10倍するだけで求まります。(10倍の計算は、小数点の位置を移動するだけでできるので、掛け算回路は不要です)
次のページでは、デジタルマルチメータ2台を用いて、実際に小さな抵抗値を測定してみます。