ネット上の誤った記事を写して実験レポートを書いた失敗例

前回の学生たちが実験レポートで共通の間違いをする理由が分かったという記事では、私が指導している学生達が、実験レポートに共通した間違いを書いてくるのは、ネット上の誤った記事を写すかららしいという話をしました。今回は、それが具体的にどういう間違いなのかについて書きます。

問題になったのは電圧フォロワの動作に関する考察

私は大学で、OPアンプ(オペアンプ)を使用した代表的な数種類回路の特性を測定し、それらの働きについて考えさせる実験の指導を行っています。学生たちが誤った考察をするのは、電圧フォロワ(別名、ボルテージフォロワ)と呼ばれる回路についてです。

電圧フォロワの回路図を次に示します。(電源端子は省略してあります)

電圧フォロワ

電圧フォロワとは、簡単にいうと、増幅率が1倍の電圧増幅器です。入力電圧をVIN、出力電圧をVOUTとすると、VOUT = VIN という関係が成立します。

学生達の誤った考察

実験の授業中に、私が「電圧フォロワの増幅率は1倍なので、一見不要に見えるが、ちゃんとした働きがあります。レポーターは是非その働きについて考察してください」という様な事をいったので、多くの学生が、電圧フォロワの働きについて考察してきました。学生達のレポートを見ると、、次の様な間違った記述が、多くの学生に共通して見られたのです。

直流の信号はダイオードを使うと一方通行にできるが、交流の場合は電圧フォロワが必要である。

Googleで「電圧フォロワ」を検索してトップに出てくるページを見ると、同じ様な事が書いてあるので、学生達はそれを写したものと思われます。

注:Googleは利用者の検索履歴などを参考に、検索結果の表示順序を一人ごとに調整しています。「電圧フォロワ」で検索しても、全ての場合において問題のページがトップに表示されるとは限りません。

この記述がどう誤っているかは、以下に説明します。

広告

ダイオードの働き

ダイオードの話が出てきたので、ここでダイオードの働きについておさらいしておきます。

ダイオードはA(アノード)とK(カソード)の2つの端子がある電気部品です。ダイオードの回路図を次に示します。

ダイオード

ダイオードには、「カソードから見たアノードの電圧( V )が正なら、電流( I )が流れるが、V が負なら、電流が流れない」という性質があります。

つまり「ダイオードに電流が流れる場合、その電流の向きは一方向」だとはいえますが、「ダイオードで信号の伝わる向きを一方向にできる」訳ではありません。

電圧フォロワで行える回路動作の分離について

先ほど、電圧フォロワは1倍の電圧増幅器である事を説明しましたが、もう少し詳しく電圧フォロワの動作について説明します。

下の図のように、電圧フォロワに負荷をつないだ場合の、入力電流 IIN と出力電流 IOUT について考えます。

電圧フォロワの入出力電流

この場合、負荷がつながっているので、出力端子に電流が流れます。

例えば、負荷が抵抗値 RL の抵抗だとすると、出力電流 IOUT は、 IOUT = VOUT / RL で求まります。

一方で、電圧フォロワの入力電流 IIN は理論的に0になります。また、出力電流が流れている場合でも VOUT = VIN の関係は成立します。

注:これは、理想OPアンプにおける話で、現実のOPアンプでは IIN は完全には0になりません。ただし、かなり小さい値にはなります。

この入力電流が0になるという電圧フォロワの性質を利用し、信号源と負荷の間に電圧フォロワを設置すると、負荷電流の影響を無視して、信号源の動作を考える事ができる様になります。これを「回路動作の分離」と呼びます。

これだけの説明では理解しにくいので、具体的な例を挙げて説明します。

次の図に示す様に、電圧 V の直流電圧源を、抵抗値 R の2つの抵抗からなる分圧回路で1/2に分圧する場合を考えます。

分圧回路

この回路の出力電圧が1/2 V になるのは、出力に負荷がつながっていない場合の話です。負荷がつながり、負荷電流が流れると、話は変わってきます。

例えば、次の図に示す様に、先ほどの分圧回路に抵抗値 R の負荷抵抗がつながると、出力電圧は1/3 V に変化します。

負荷の付いた分圧回路

この様に、分圧回路の出力電圧は、負荷がつながる事により変動します。この理由については、この記事の趣旨から外れるので、詳しくは説明しませんが、かいつまんで説明すると、負荷抵抗がつながると、負荷電流が流れ、その負荷電流が分圧回路の抵抗に電圧降下を発生させるからです。

負荷により出力電圧が変動するのを避けたいならば、次の図のように、分圧回路の後段に電圧フォロワを設置すると、問題が解決します。

電圧フォロワ付きの分圧回路

負荷抵抗に負荷電流 I2 が流れても、電圧フォロワの働きにより、分圧回路から流れ出す電流 I1 は0となるため、分圧回路の動作に負荷電流の影響が表れません。

直流電圧源の電圧 V が変化すると、それに応じて負荷にかかる電圧 VOUT も変化しますが、一方で負荷抵抗が変化し、負荷電流 I2 が変化したとしても、分圧回路の出力電圧は変化しません。

この様に、信号源と負荷の間に電圧フォロワを設置すると、信号源側の変化は負荷に伝わりますが、負荷側の変化は信号源に影響を及ぼしません。言い換えると信号の伝達の方向が信号源→負荷の、一方向になります。これが回路動作の分離です。

最後に

私は、学生達の参考にしたサイトの作者を非難するつもりは毛頭ありません。

それに、そのサイトの作者がアナログ回路に疎い人だとも思っていません。そのサイトの他のページを読むと分かりますが、アナログ回路について、専門的な解説がなされています。

第一、Googleは、検索結果の表示順位を決める際に、サイトの情報の専門性・信ぴょう性などを考慮しますので、いい加減なサイトは上位に表示される可能性が低いのです。

ただ、専門的な知識を持った人でも、うっかりと不正確な記述や誤解を招く記述をしてしまう事があります。そのような場合でも、個人が運営するサイトだと、第三者のチェックが入らないため、不適切な記述がそのまま公開されてしまう事がままあります。

この記事でいいたかったのは、こういった事情があるので、インターネットで得た情報は、その信ぴょう性を自分自身で評価し、また裏を取る習慣をつけて欲しいという事です。

さらに付け加えるとするなら、インターネットで情報を発信する者として、自分自身も可能な限り正確な情報を発信する様に、注意しなければならないという、自戒の意味を込めてこの記事を書きました。

私のサイトにも、次の参考リンクに示す、学生がレポートの参考にしていそうな記事があります。

参考リンク

なぜこれらの記事が、学生のレポートの参考にされていそうだと判断できるかというと、春休みや夏休みなど、大学や高専の長期休暇の時期になると、これらの記事へのアクセスが、目に見えて減るからです。おそらく、どこかの大学か高専で、これらの記事に関する実験をやっているのでしょう。

記事を読む学生たちが、その記事の内容を理解した上で、信ぴょう性を判断する事が一番重要ではありますが、情報を提供する側も、正確な情報を提供できる様に努力すべきだと、自分の指導している学生たちのレポートを読んで思いました。

関連ページ
広告

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

認証コード(計算結果を半角数字で入力してください) *