ここからは、電池の話について書いていきます。
電池の容量の表し方について説明します。長持ちの電池や、すぐ切れてしまう電池があることは経験的に皆さんご存知ですが、それをどのように数値として表すのでしょうか?
上の写真には電池が2本写っています。上側の白い電池が標準型のエネループです。下側の水色の電池が、容量が少ないものの値段が安いエネループ・ライトです。多少ピンボケで見にくくて申し訳ないのですが、赤い下線を引いた部分に注目すると、白いエネループには"1,900mAh"、水色のエネループ・ライトには"950mAh"と書いてあります。これらの数字が容量を表しています。(これらの数字から、エネループはエネループ・ライトの倍長持ちなのが分かりますね)
では、mAhという単位は何を表しているのでしょうか?じつはm(ミリ)は1/1000を表しており、A(アンペア)はご存知の電流の単位ですし、h(アワー)は時間を表しています。
たくさん電気を使う装置に電池を使うと早く電池が切れてしまい、少ししか電気を使わない装置に電池を使うと長持ちすることはご存知でしょうが、実は、流す電流と、電池が使える時間の積は、おおむね一定になります。このことから、電流と持続時間の積を計算すると、その電池の容量が表せることが分かります。例えば1Aの電流を1時間流せる電池があるとすれば、その電池の容量は1Ahとなります。Ahで容量を表すと数字が小さくなりすぎるときは、その1/1000の単位のmAhを使います。1Ahは1000mAhとなります。
写真に写っている白いエネループの容量は、最小でも1900mAh(1.9Ah)あることが保証されていることになります。実際には2000mAh(2Ah)位はあるのでしょう。2000mAhの電池で1A(1000mA)流し続けると、2時間持つ計算になりますし、0.1A(100mA)流し続けると20時間持つ計算になります。
余談になりますが、電流と時間の積は、電荷という物理量になります。国際単位系では電流の単位をA、時間の単位をs(秒)とすることになっており、それらの積の単位をC(クーロン)と呼ぶ事になっています。このルールにのっとれば、1Aの電流を2時間流せるエネループの容量は2×3600=7200Cと表すべきなのですが、時間の単位に秒を採用すると、電池の寿命の計算には使いにくいのでAhという単位を採用したのでしょう。電力会社が使った電気の量(電力量)を表すのにkWhという単位を使うのも同様の理由と思います。国際単位系に従うなら、J(ジュール)という単位を使うべきです。
マンガン電池やアルカリ電池など、一度使うと充電できない電池を1次電池と呼び、ニッカド電池やニッケル水素電池など、充電可能な電池を2次電池と呼びます。
2次電池に、放電時と逆の方向の電流を流せば充電できる訳ですが、うまく充電するには色々と気をつけるべき事があります。一番問題なのは、どのくらいの電流をどの位の時間流すのかということです。
ニッケル水素電池の場合、0.1C充電が一般的な充電方法となります。"C"は、電流の大きさを表す単位です。1Cは、電池の容量を1時間で使い切る(あるいは充電する)電流の量を表しています。例えば、2000mAhのエネループの場合、1Cは2000mAを、0.1Cは200mAを表します。また、1000mAhのエネループ・ライトの場合、1Cは1000mAを、0.1Cは100mAを表します。充電時にせよ、放電時にせよ、電池の容量に比例して流せる電流が決まるので、Cという、電池の容量を基準にした相対的な電流の単位を電池業界では使うようです。(このCは、国際単位系のクーロンとは異なりますので要注意)
エネループの場合、0.1Cに相当する200mAで充電すればいいのですが、何時間充電すればいいのでしょうか?理想的には放電時に取り出した電荷と同じだけ(2000mAh)電池に戻してやればいいので、200mAで10時間充電すれば満充電になるはずです。ところが、実際には色々ロスがあるようで、16時間程度充電すると満充電になります。
このルールで充電するために、0.1Cの一定電流で充電する回路に、16時間のタイマーを組み合わせた充電器もありますが、使い切っていない電池でも16時間充電してしまうので、このような場合は過充電になるという問題があります。
なお、使い切っていない電池を充電することを継ぎ足し充電と呼びます。ニッケル水素電池を継ぎ足し充電するとメモリー効果と呼ばれる電圧低下現象が起こるので、一般には継ぎ足し充電は好ましくないといわれていますが、エネループの場合は継ぎ足し充電にも比較的強いとされています。
何らかの手段で満充電になったことを知ることができれば、満充電になった時点で充電をストップできるのですが、電池内部に溜まっている電荷は目に見えませんし、直接測定器でも測れませんので、満充電のタイミングを知ることは意外に難しいです。ただし、充電時の電池の両端電圧を測っていれば、おおむねの充電状態が分かりますので、これを利用しておおよその判断ができます。
図9は充電時の電池の電圧の変化の様子を表しています。このグラフは概形を現したグラフです。
充電が進むにつれ電圧が上昇することはグラフから読み取れますが、充電初期を除いて、その上昇はかなりゆるやかです。また、電池が満充電になると、電圧の上昇がほぼなくなり、平坦なグラフになってきます。
電池がある電圧に達したら充電を止めるという方法を取るなら、充電終止電圧の設定を少し下げるだけでかなり不足充電になったり、充電終止電圧の設定を少し上げるだけで充電が止まらなくなったりすることが理解いただけると思います。よって、充電終止電圧の判定回路にはそれなりの精度が必要です。また、完全に満充電になってしまうと電圧の上昇が止まってしまうので、この方法だと満充電になる直前に充電をやめる事になります。
そのうえ、電池の電圧は温度に左右されるという性質もあります。ニッケル水素電池の電圧は、温度が1℃上がるごとに、おおよそ3mV低下します。(温度係数-3mV/℃)その影響で、充電終止電圧を一定にしてしまうと、冬場には不足充電になり、夏場は充電がいつまでも止まらないという事態になります。
25℃程度の室温において、手持ちのエネループで実験したところ、充電終止電圧を1.45V程度に設定すると、うまく充電が終了できることが分かりました。これを基準に、温度補正をして充電終止電圧を決めればうまく充電できそうです。
また、今回製作した充電器では、充電終止電圧に達しても急に充電を止めるのではなく、電流値を調節して充電終止電圧を維持する、定電流定電圧充電を採用しました。定電流定電圧充電については、後に説明します。
満充電になっても充電を止めず、過充電状態になったら、どういうことが起こるのでしょうか?
満充電になる前は、充電器から供給した電気エネルギーは、大半が電池を充電することに使われます。しかし満充電になってしまうと、電池に外から電気を詰め込まれても、それを貯めることはできなくなります。結局、電気エネルギーは熱エネルギーに変わり、電池の温度が上昇します。また、ニッケル水素電池の場合、充電時に電池内部で水素ガスや酸素ガスが発生するのですが、満充電に近づいてくると、ガスの発生が活発になり、電池内部の圧力が上がってきます。ニッケル水素電池の5大特性の図1を見ると、満充電になる直前から、電池の温度と内圧が上昇している様子が分かります。
満充電になっても充電を続けると、高温、高圧の不安定な状態が続くことになります。とはいえ、0.1Cの標準的な充電電流で充電する場合、危険な事故が起こるほどに温度や圧力が上昇するわけではありません。また、短時間なら過充電状態が続いても、ニッケル水素電池の場合、それほど電池が痛むわけでもないようです。(ニッケル水素電池が過充電に強いのは、過充電をすると容易に発煙・発火事故を起こすリチウムイオン2次電池やリチウムポリマー2次電池とは対照的です)
この様にニッケル水素電池は比較的過充電に強いので、簡易型の充電器では、満充電になっても充電を止める機能がなく、使う人が時間を見計らって充電器を止めるようになっているものもあります。下の写真は100円ショップで売っているニッケル水素電池の充電器ですが、この充電器には充電を自動的に止める機能がありません。
0.1C充電の場合、過充電しても大したことは起こりませんが、0.5Cなどと充電電流を増やし、急速充電する場合は話が別です。急速充電する場合は、満充電になったら確実に充電を止める必要があります。急速充電器には必ず満充電を検出する回路が付いていますが、その検出回路が誤作動を起こすと、発煙・破裂事故を起こす心配があります。今回製作した充電器は、0.1C充電をするので、その点安心です。
電池に負荷をつけると、負荷がない場合よりも電圧が下がります。また、電池に充電電流を流すと、充電電流のない場合より電圧が上がります。(図10(a)を参照)この現象は、図10(b)に示すような、電圧変動のない理想的な電池に抵抗が繋がったモデル(等価回路)を作ると、うまく説明ができます。
注:ここでは放電や充電は短時間で終わるものとしています。長時間放電すると、放電電流が一定でも、電池が消耗して徐々に電圧が低下しますし、長時間充電すると、充電電流が一定でも、電圧は徐々に上昇してきます。ここではこの様な効果は考えていません。
電流が0の場合の電圧を起電力Eと呼びます。電池の端子電圧Vは、起電力Eから内部抵抗rで生じる電圧降下rIを引けば求まりますから、次の式が成立します。
インターネットを検索すると、こちらのサイトで電池の内部抵抗の測定をやっておられるみたいですが、単4型のニッケル水素電池で内部抵抗が0.2Ω程度みたいです。
電池の充電が進むと、起電力は上昇し、内部抵抗は低下します。電池が消耗してくると、起電力は低下し、内部抵抗は上昇します。
なお、図10(b)の等価回路で電池の特性が説明できるからといっても、電池を分解したら、理想的な電池と内部抵抗が別々に出てくるわけではありませんので、念のため。
図11の様な特性を持った回路を定電流定電圧電源(あるいは定電圧定電流電源)と呼びます。
負荷抵抗を下げて、電流を徐々に増加させると、あるところまで、電圧は一定に保たれます。(定電圧領域) しかしある点に達すると、負荷抵抗を下げたら電圧が低下し、逆に電流が一定に保たれます。(定電流領域)
次に、色々な抵抗値の負荷抵抗を、定電流定電圧電源につないだ場合の、電圧、電流の計算について説明します。
図12のグラフの実線は、定電圧領域の電圧が1.45V、定電流領域の電流が0.2Aの定電流定電圧電源の特性を表わしています。傾きの違う破線が3本書いてありますが、これらは負荷抵抗の特性を表わしています。(a)は14.5Ωの抵抗、(b)は7.25Ωの抵抗、(c)は4Ωの抵抗の特性をそれぞれ表わしています。電圧と電流の比例係数が抵抗ですから、(a)の直線の傾きは14.5、(b)の直線の傾きは7.25、(c)の直線の傾きは4となります。
ここで、定電流定電圧電源に14.5Ωの抵抗をつないだ場合の電圧と電流を求めて見ます。実際の電圧と電流は、実線で表わした定電流定電圧電源のグラフと、(a)の破線のグラフが交わった点で与えられます。図12を見ると、(a)の破線は、電源の定電圧領域の直線(水平線)と交わっていることが分かります。I=VRにR=14.5[Ω]とV=1.45[V]を代入して計算すると、電流Iは0.1Aであることが分かります。つまり、この場合、電圧は1.45V、電流は0.1Aとなります。
次に負荷抵抗が7.25Ωの場合の電圧と電流を求めます。(b)の破線は、電源の定電圧領域の直線(水平線)および電流領域の直線(垂直線)の交点をちょうど通っています。よって、電圧は1.45V、電流は0.2Aとなります。
最後に負荷抵抗が4Ωの場合の電圧と電流を求めます。(c)の破線は、電源の定電流領域の直線(垂直線)と交わっていることが分かります。(c)の破線と垂直線の交点の電圧を求めるには、V=RIにR=4[Ω]とI=0.2[A]を代入すればよく、0.8Vになることが分かります。電流は0.2Aです。
それでは、定電流定電圧電源に、電池をつなぐとどうなるでしょうか。
図13(a)は、定電流定電圧電源に、内部抵抗r、起電力Eの電池をつないだ時の回路図です。その時の電源および電池の特性を表したのが図13(b)です。
このグラフにおいて実線は定電流定電圧電源の特性を表しています。定電圧領域の電圧を1.45V、定電流領域の電流を0.2Aとしています。破線で表したのが電池の特性ですが、(a)起電力1.2V・内部抵抗0.2Ω、(b)起電力1.43V・内部抵抗0.2Ωの2つの条件の場合を図示しています。
電池の端子電圧(電源の出力電圧)Vは、電池の内部抵抗r、電池の起電力E、充電電流Iより次の式のように求まります。
式(7)と式(8)では、プラスマイナスの符号が逆になっています。これは、式(7)の場合、放電電流をIとしたのに対し、式(8)の場合では充電電流をIとしたためです。
(a)の条件の場合、電池の特性のグラフが電源の定電流領域の直線(垂直線)と交わっています。よって、充電電流は0.2Aと求まります。端子電圧については、式(8)にE=1.2[V]、r=0.2[Ω]、I=0.2[A]を代入して計算すると、1.24Vと求まります。
(b)の条件の場合、電池の特性のグラフが電源の定電圧領域の直線(水平線)と交わっています。よって、端子電圧は1.45Vと求まります。充電電流については、式(8)にE=1.43[V]、r=0.2[Ω]、V=1.45[V]を代入してIについて解けばよく、その結果0.1Aだと求まります。
電池を充電して起電力が徐々に上昇していった場合、電圧と電流はどう変化するでしょうか。充電すると、実際には起電力だけでなく、内部抵抗も変化するのですが、議論を簡単にするため、起電力の変化のみをここでは考えることにします。
図14は、定電流定電圧電源の定電圧領域を1.45V、定電流領域を0.2A、電池の内部抵抗を0.2Ωとして、電池の起電力を1.3Vから1.45Vまで変化させた時の端子電圧と充電電流の変化を表したグラフです。
このグラフの実線は端子電圧を表しています。起電力が上昇すると、それに伴い最初は端子電圧も上昇していますが、起電力が1.41Vに達したときに、端子電圧の上昇は頭打ちになります。その後は端子電圧が1.45Vの定電圧領域に入ります。
一方で破線の方は充電電流を表しています。起電力が1.41V以下の領域では、充電電流は0.2A一定になります。(定電流領域) 起電力が1.41Vを超えると、充電電流は減少し始め、起電力が1.45Vに達すると、充電電流は0になります。
ここで、使い切った電池を充電することを考えます。充電が進むにしたがって起電力が上昇することを考えると、電池の端子電圧と充電電流は、時間と共におおむね図15のように変化します。
最初の内は端子電圧が上昇し、充電電流は0.2A一定(定電流充電)です。 2000mAhの電池の場合、10時間くらい経過すると端子電圧は1.45Vで一定(定電圧充電)になり、電流は減少し始めます。この様に、最初に一定電流の充電を行い、目標の電圧まで端子電圧が上昇した後は、一定電圧を維持するように充電する方法を、定電流定電圧充電と呼びます。
定電圧充電が始まって十分時間がたっても、充電電流は完全に0Aにはならず、わずかな電流で充電を続けます。この状態は、電池の自己放電(電池内部で起こる放電)で失われるわずかな電流を充電器が補っている状態です。この様な充電をトリクル充電と呼びます。
次のページでははいよいよ充電器の組み立て方の話をします。