単3ニッケル水素電池充電器の製作(7)

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19.MOS-FETとPWM変調について

ここからは、今回作成した充電器が、どの様な原理で動作しているか考えて見ましょう。充電器の中でMOS-FETが重要な働きをしているので、まずはMOS-FETの解説からします。

図24、PチャネルMOS-FETの回路記号
図24、PチャネルMOS-FETの回路記号

上の図は、PチャネルMOS-FETの回路記号です。MOS-FETには、電圧や電流の極性が逆のNチャネルMOS-FETもあり、どちらかというとNチャネルMOS-FETの方が一般によく使われるのですが、今回製作した充電器にはPチャネルのMOS-FETしか使いませんので、Pチャネルに限って説明します。

MOS-FETは、図24を見ると分かるように、3端子の素子です。端子にはソース(S)、ドレイン(D)、ゲート(G)という名前が付いています。今回使った2SJ537の写真を下に示します。

写真11、2SJ537
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写真11、2SJ537

MOS-FETの働きを簡単に説明すると、外部電圧でONとOFFを制御できる、スイッチです。ソースとドレイン間がスイッチです。ゲートに入ってくる電圧で、ONとOFFを制御します。

PチャンネルMOS-FETは、通常ソースをドレインより高電圧側にして使います。ゲート-ソース電圧がある程度の負の電圧になるとソース・ドレイン間のスイッチがOFFになり、ゲート-ソース電圧が0V付近だとソース・ドレイン間のスイッチはONになります。

負荷と電源の間にMOS-FETのスイッチをはさみみ、周期的にスイッチをON・OFFする回路を作ってみましょう。作るといっても、実際に部品を半田付けするのではなく、SPICEというシミュレーターを使い、パソコン上で回路を作ります。

図25、MOS-FETによるスイッチング回路
図25、MOS-FETによるスイッチング回路
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V1は5Vの直流電源です。R1は10Ωの負荷抵抗です。Q1はIRLML6402という型番のPチャネルMOS-FETです。本来は2SJ537を使ってシミュレーションをしたかったのですが、2SJ537のシミュレーションモデルが入手できなかったので、特性のよく似ているIRLML6402を使いました。

V2はQ1のONとOFFをコントロールするための、方形波発振器です。5μsの間2Vを出力し、次の5μsの間5Vを出力し、また5μSの間2Vを出力し…と、2Vと5Vを10μsの周期で交互に出力します。(1μsは百万分の1秒)

V2はGND電位を基準に見れば2Vと5Vを繰り返しますが、Q1のソースを基準にすれば-3Vと0Vを繰り返していることになります。V2が2V(ソース基準なら-3V)の時はスイッチがON(ソースとドレインが導通する)になり、V2が5V(ソース基準なら0V)の時はスイッチがOFFになります。

この時のQ1のゲート電圧とドレイン電圧をシミュレーションで観察してみましょう。Q1の左側にオレンジ色のプローブが付いていますが、これはQ1のゲート電圧を測定することを表しています。同様に、Q1の下側の緑色のプローブは、Q1のドレイン電圧を測定することを表しています。

図26、MOS-FETのスイッチングのシミュレーション結果
図26、MOS-FETのスイッチングのシミュレーション結果

上のグラフが、シミュレーション結果です。オレンジ色の波形がゲート電圧を、緑色の波形はドレイン電圧を表しています。

ゲート電圧は、Q1のスイッチ(MOS-FET)をコントロールする電圧です。この電圧が低いときはQ1はONに、高いときはQ1はOFFになります。

ドレイン電圧は、見方を変えれば、負荷であるR1の両端電圧です。Q1がONの時に5V、Q2がOFFの時に0Vになっています。

10Ωの負荷(R1)には半分の時間5Vがかかり、残りの半分の時間は0Vがかかっていますが、言い方を変えれば、平均2.5Vの電圧が掛かっていることになります。さらに、スイッチがONしている時間の割合(これをデューティー比という)を変化されれば、負荷にかかる平均電圧を0V~5Vの範囲で自由に変化させることができます。(下図参照)

図27、デューティー比と平均電圧
図27、デューティー比と平均電圧

この様にパルスの幅を変化させることによって負荷にかかる平均電圧を変化させる方法を、PWM変調といいます。平均電圧を変化させられるといっても、負荷にその電圧の直流がかかるわけではなく、電圧が時間的に変動しているわけですが、例えばモーターの速度制御、ヒーターの温度制御、LEDや電球の明るさの制御などでは、必ずしも一定電圧をかける必要がないので、PWM変調で電圧を制御することがよくあります。図25の回路のQ1のゲートにかかる制御電圧を、PWM波形の発生できるマイコンなどで発生すると、この回路はそのまま実用的なPWM制御回路として利用できます。

PWM変調で電圧を制御する場合、電力のロスが原理的に発生しないのが特徴です。図25のQ1がOFFの期間では、どこにも電流が流れませんので、回路は電力を消費しません。またQ1がONのタイミングでは、Q1やR1に電流が流れますが、Q1の両端電圧はほぼ0Vであるため、Q1は電力を消費せず、全ての電力はR1で消費されます。

厳密な話をするとQ1がONになっても、完全に0Ωになっているわけではなく、ON抵抗と呼ばれる抵抗が残ります。そのためQ1でもわずかに電力を消費しますが、ON抵抗が負荷抵抗よりも十分に小さければ、電力のロスは、無視できます。また、Q1のゲートとソース、あるいはゲートとドレインには寄生容量があり、ゲート電圧が変化する際に、寄生容量を充電するために若干のエネルギーを消費しますが、これもほとんどの場合無視できます。

図28、可変抵抗で負荷電圧を制御する場合
図28、可変抵抗で負荷電圧を制御する場合

上の図の様に、可変抵抗を用いて、負荷電圧を制御することもできます。可変抵抗の抵抗値を上げれば負荷電圧を下げることができ、可変抵抗の抵抗値を下げれば、負荷電圧を下げることができます。

この様に可変抵抗で負荷電圧を制御する方法では、負荷に一定の電圧をかけることができる利点はありますが、一方で、可変抵抗で大きな電力のロスが発生します。例えば可変抵抗を15Ωにすれば、負荷電圧を2Vにすることができます。この際、可変抵抗が消費する電力は3Wで、負荷抵抗が消費する電力は2Wです。実に60%の電力が可変抵抗で失われることになります。

今回の話はここまでです。徐々に内容を追加していきます。

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