2018年02月21日 | 公開。 |
この記事では、ZEROPLUSの、Arduinoとロジックアナライザの入門用キットである、Arduino starter kit with Logic Analyzerという製品について紹介します。同製品は、Arduino、ブレッドボード、各種電子部品、教本、およびロジックアナライザの安価なセットで、同製品の他にWindowsパソコンを用意すれば、Arduinoやロジックアナライザの使い方を勉強できます。
この製品に付属しているロジックアナライザは、初心者向けに新規開発された物で、LAP-Educatorという名称がつけられています。チャネル数を8チャネルと抑える事で、低価格で小型の製品に仕上がっています。また、波形を表示するためのパソコンのソフト(ZP-Studio)は、LAP-Educator用に新規開発された物で、初心者でも使いやすい様に、画面構成が簡略化・整理されています。
Arduino starter kit with Logic Analyzerの紹介をする前に、この記事を書く事になったきっかけや、記事を読むにあたって知っておく方がよい予備知識について書きます。
私は、ZEROPLUSのLAP-C(16064)というロジックアナライザに関する記事を、過去に当サイトでいくつか書きました。それがZEROPLUSの営業の方の目にとまった様で、メールで連絡をいただき、同社の新製品、Arduino starter kit with Logic Analyzerを提供していただきける事になりました。(その経緯は、ブログのArduino starter kit with Logic Analyzerがやってきたという記事に書きました)
この記事では、提供いただいた製品を筆者が実際に使った上で、その特徴や、やや詳しい使い方について説明します。当初は、すぐに書ける簡単なレビュー記事にしようかと思っていたのですが、使ってみると面白そうな製品だったので、もう少し突っ込んだ内容で記事を書く事にしました。何回かに分けて、レビューや解説を連載する予定です。
ZEROPLUS社に製品を提供していただいているものの、製品のいい面を伝えるばかりではなく、良くない面も率直にレビューしようと思っています。これは、製品の購入を検討されている読者のためでもあり、また、「ZEROPLUSの将来の製品開発の参考になれば」という思いからでもあります。
まず、今回紹介するArduino starter kit with Logic AnalyzerのメーカーであるZEROPLUSについて説明します。
ZEROPLUSは、台湾にある電子機器の製造メーカーです。ビデオゲーム用の基板の製造や、アーケードゲームの筐体の製造もやっているみたいですが、電子工作界隈の人々の間では、ロジックアナライザの製造メーカーとして有名です。
ZEROPLUSはコストパフォーマンスの良いローエンドのロジックアナライザから、1GHzサンプリングできる高速ロジックアナライザまで製造していますが、それらの中でもローエンドモデルであるLAP-Cシリーズは、秋月電子やストロベリー・リナックスでも購入でき、また安価で高性能である事から、日本の電子工作ファンの間で人気です。筆者も、同シリーズのLAP-C(16064)という製品(写真1左側)を愛用しています。
当サイトの読者は電子回路に詳しい人が多いのですが、念のためロジックアナライザについて簡単に説明しておきます。
ロジックアナライザ(ロジアナ)は、デジタル回路の信号の時間変化を観察するための装置です。ロジックアナライザを使うと、図1に示す様に、デジタル信号の時間変化が、グラフとして、視覚的に把握できます。横軸が時間の流れを、縦軸が電圧を表わしています。
電圧が閾値より高い(H)か低い(L)かだけで波形が表現されている事が分かります。細かい電圧の変化は読み取れませんが、多くのチャネルの信号の波形が同時に観察できます。(この例では8チャネルを同時観測)
ロジックアナライザと同様、電子回路の信号の時間変化を観察する計測器には、オシロスコープ(オシロ)と呼ばれる物もあります。オシロスコープはアナログ信号観察用の計測器で、電圧の値を細かく測定する事ができます。オシロスコープの画面の例を図2に示します。
電圧が滑らかに変化する正弦波でも、その電圧変化が正確に読み取れます。電圧を細かく調べられる分、同時に観察できる信号のチャンネル数が少なくなります。(この例では1チャンネルのみを観測)
オシロスコープはアナログ信号用の測定器なので、電圧が細かく読めますが、ロジックアナライザは通常、電圧が閾値(基準値)より高い(H)か低い(L)かの判別しかできません。オシロスコープならアナログ信号だけでなくデジタル信号も観測ができるので、ロジックアナライザよりも先にオシロスコープを購入する電子工作ファンが多いようです。
しかしながら、複雑なデジタル信号を扱う様になると、オシロスコープでは十分な観察が難しくなります。
まず、同時観測できる信号のチャンネル数が、ロジックアナライザの方が多いのです。ロジックアナライザなら、入門機でも、8チャンネルないし16チャンネルの信号を同時観測できます。一方で、オシロスコープの場合は、入門機だと同時観測できる信号は1または2チャンネルで、高級機でも4チャンネルの物が多いです。
また、記録できる波形の長さも、一般的にはオシロスコープよりロジックアナライザの方がずっと長いです。2つの機器がデジタル回線で通信しあっている内容を解析する様な場合、ロジックアナライザを使わないと、十分な長さの信号を記録できない事が多いです。
さらに、ロジックアナライザには、比較的低価格の物でも、プロトコルアナライザの機能が付いている場合が多いです。今回紹介するArduino starter kit with Logic Analyzerの付属ロジックアナライザにもプロトコルアナライザの機能が付いています。オシロスコープにも、プロトコルアナライザの機能が付いている物もありますが、かなりの高級機に限られます。
プロトコルアナライザとは、ディジタル信号の内容を測定器が自動的に解析してくれる便利な機能の事です。
図3の波形を例に、プロトコルアナライザの機能について考えます。
この電圧波形は、調歩同期方式のシリアル通信において、16進表記で92Hの信号を送信した場合の波形です。この波形をオシロスコープで観察する場合、波形を見ながら「最初にLになった部分はスタートビットなので無視して、次から順にH、L、L、H、L、L、H、Lという信号が出ているので、送信された信号は2進数表記で10010010になり、さらにそれを16進表記に直すと92Hになる」といった事を頭の中で考える必要があります。
ロジックアナライザで同じ波形を観察する場合、調歩同期方式で1000bpsで通信している事をあらかじめプロトコルアナライザに登録しておけば、先ほどの様な分析が自動的に行われ、送信したデータが92Hである事が画面上に表示されます。
Arduino starter kit with Logic Analyzerは、Arduino Uno、ブレッドボード、各種電子部品、教本、それに8チャネルのロジックアナライザをセットにした製品で、他にWindowsパソコンを用意するだけで、Arduinoやロジックアナライザの勉強ができる様になっているセットです。Arduino starter kit with Logic Analyzerの内容を、写真2に示します。
Arduino、ブレッドボード、各種電子部品と教本がセットになった製品は過去にもありましたが、ロジックアナライザをセットにしたことで、安価にロジックアナライザの勉強をできる様にした製品は初めてだと思います。
Arduino starter kit with Logic Analyzerは、"starter kit"という名称が表わしている様に、Arduinoに初めて触れる初心者を対象に開発された物のようですが、やはりロジックアナライザという測定器を扱う事もあり、ある程度Arduinoやブレッドボードを使った電子工作に慣れている人に向いている気がします。この事については、後に改めて説明します。
現在は、英語版の製品のみが発売されており、付属する説明書、教本などはすべて英語で書かれています。残念ながら日本人には敷居の高い面がありますが、ZEROPLUSは、将来は日本語版を発売する予定の様です。日本語版の教本のドラフトを見せていただきましたが、すでに日本語訳は結構進んでおり、近い将来に日本語版が発売される事が期待できそうです。
Arduino starter kit with Logic Analyzerは、アメリカのAmazonで150ドルで販売しています。1ドル=110円で計算すると16,500円になります。
日本のAmazonでも同製品を輸入販売している業者がありますが、販売価格が3万円以上と高く、可能な人は、アメリカのAmazonから個人輸入する方が、かなり安くなりそうです。
一方で、日本語版が発売されるまで待つのもいいかも知れません。日本語の教本が付く上に、おそらくリーズナブルな価格で、日本の販売店で購入できる様になると思われます。
Arduino starter kit with logic Analyzerに含まれる物の概要を説明します。
製品全体が、写真3と写真4に示す紙のパッケージに入っています。
パーッケージを開けると、写真5の様な部品箱と、写真6の様な教本が出てきます。
部品箱を開けると、中は2段になっています。
上の段には、写真7の様に、ブレッドボードと、モーター、タクトスイッチ、電池ボックス、各種ブレークアウト基板などの部品類が入っています。左上には、教本を綴じるためのリングも見えます。
下の段には、写真8の様に、ロジックアナライザ、キャラクタLCDモジュール、Arduino Uno、各種ケーブル類が入っています。
部品箱の下の段には、部品や機材が重なる様に入っているため、一部を取り出し、部品箱のふたの上に置いて撮影しました。左上の白い筐体でZEROPLUSと書かれているのがロジックアナライザです。右上にはキャラクタ型LCDモジュールがあります。右下にはArduino Unoがあります。このArduinoは、もちろん純正品です。左下には各種ケーブル類があります。
部品箱のふたの部分の用紙の裏側には、写真9の様に、部品の一覧表があります。
部品箱に、保証書も入っていました。(写真10) ZEROPLUSの製造ミスに起因する不具合は、2年間保証されるようです。ユーザーが製品を正しく使わなかった事により発生した不具合は、保証されません。
教本は、写真11に示す様に、カード型になっており、三つのリング(写真12)でカードの左側を綴じて本の形にします。通常の製本よりも、リングファイル形式にする方が、実験しながら見開きで教本を読みやすいとの判断でしょう。(写真13参照)
ロジックアナライザを動作させるには、パソコンにソフトをインストールする必要があるのですが、インストールのためのCD-ROMやDVD-ROMはついていません。ZEROPLUSのサイトからダウンロードする様になっています。
次のページでは、付属するロジックアナライザ(LAP Educator)について説明します。