前回は、これ1冊でできる! ラズベリー・パイ 超入門 改訂第3版の書評を書きましたが、今回は作る・できる/基礎入門 電子工作の素( 後閑 哲也著、技術評論社)の書評を書きます。
本書はamazonの販売ページを見ると、カスタマレビューが23件も付いていて、星も4つ以上ある、評価の高い本です。
本書は、書名に「作る、できる/基礎入門」という言葉が付いているので、入門者向けの本という印象を受けますが、実際には、初心者には難しすぎるように思います。むしろ、電子工作を一通りできる人が、アイデアを出すために参考にする本という方がいいと思います。
この記事の最後に載せた目次を見ても分かる様に、327ページの本に、回路図の書き方、様々な電子部品の解説、電子部品の購入方法、回路の設計方法、プリント基板の設計・製作方法、測定器の使い方、電子工作の作例などがぎっしりと詰まっています。「電子工作の百科事典」という感じです。
これだけ広い範囲のトピックをカバーしているので、一つ一つのトピックに割くページ数は少なくなります。例えば、トランジスタ回路の設計法は9ページ、電源回路の設計法は6ページで説明が終わっています。本来なら、それぞれの説明に、1冊の本が必要になる様な内容です。ですから、これらの内容について、初心者が本書の説明で理解をしようとするには無理があり、むしろ上級者が要点を振り返るのに便利な構成になっています。
第1章では、回路記号の説明や回路図の書き方、読み方などの基本的な知識ついて解説しています。この章は電子工作初心者にも大いに参考になるでしょう。
回路記号については旧JIS規格に基づいた記号のみが載っています。他の電子工作の本を見ても、旧JISの記号を使った回路図を載せている本は多いですが、徐々に新JIS記号が普及してきており、特に学校の教科書では新JIS記号を使っている様です。本書には新JIS記号の説明がありませんので、この点は注意が必要です。
第2章では様々な電子部品を紹介していますが、例えば抵抗やコンデンサについては、色々な種類の抵抗やコンデンサの特徴や使い分け方が載っており、「どうしてこんなに色々種類があるんだろう」という疑問にも答えるような内容になっています。
ダイオード、トランジスタ、各種IC、光半導体、各種センサなど、幅広い電子部品について、良くまとまった説明が載っていますので、それらを眺めていると、「こういう事をしたい時には、この部品を使えばいいんだ」と、気づく事があるかも知れません。
ただ、2章の後半になると、部品の規格表(データシート)の読み方の説明が載っており、例えばトランジスタのhFE、VCE(sat)、fTなどの説明も出てきます。これらの説明は、電子工作の初心者にとっては、チンプンカンプンでしょう。あまり悩まずに、理解できないところは読み流す方がいいと思います。
参考:私は電気工学科・電子工学科の非常勤講師で、大学2年生に教えています。トランジスタの特性についても大学で教えた事がありますが、その時の経験から言うと、hFE、VCE(sat)、fTなどの意味を大学2年生の段階で正確に理解している学生は、ほとんどいないと思います。4年生になって、電子回路の設計をする研究室に配属され、必要に迫られて勉強したら、ようやく分かってくるという感じではないでしょうか。
3章では、回路設計の基礎について説明しています。トランジスタ回路、オペアンプ回路、デジタル回路、および電源回路について設計法の概要が載っています。
ただ、前にも述べたように、設計法については非常に少ないページで説明してあるため、本書の説明だけでマスターするのには無理があります。代表的な回路の回路図と、その回路の特性を表す最も重要な式の説明がある程度で、回路の動作原理の十分な説明もありませんし、設計に必要な式を全部網羅しているわけでもありません。
第3章までは理屈の話でしたが、第4章以降は実技(工作)の話になります。
第4章では回路の自作法について説明があります。写真や図を使って工具の使い方の説明があるので、初心者にも参考になる事が多いでしょう。また、基板の組み立て方だけでなく、ケース加工の方法や測定器の使い方の説明がある点は重宝するでしょう。(ただし、オシロスコープの使い方の説明がたった6ページですので、概略しか分かりませんが)
第5章は、電子工作の作例として、AC電力コントローラ、太陽電池を使ったニッカドバッテリ充電器、専用ICを使ったリチウムイオンバッテリ充電器、実験用電源、無線操縦ラジコン車、ラジコン送信機の作り方を紹介しています。
前回紹介したこれ1冊でできる! ラズベリー・パイ 超入門 改訂第3版では、ブレッドボードを使って、極力半田付けしないでいいように、初心者向けの配慮があったのですが、本書では、基板をエッチングしなければならない作例があったり、狭ピッチの表面実装ICを半田付けしなければならない作例があったり、PICマイコンにプログラムを書き込まなければならない作例があったりと、難易度は高めです。特にPICマイコンに関しては、プログラムの作り方も、プログラムをPICマイコンに書き込む方法も、本書には解説がありませんので、別途勉強する必要があります。
最後に本書の目次を載せておきます。
第1章 電子工作の常識 ・・・ 11
1-1 「電子工作」ってなに? ・・・ 12
1-2 回路図の見方・書き方 ・・・ 14
1-2-1 回路図の基本的な要素 ・・・ 14
1-2-2 部品の略号と記号 ・・・ 14
1-2-3 電子回路の基本単位 ・・・ 17
1-2-4 回路図の接続と交叉 ・・・ 17
1-2-5 電源とグランド ・・・ 19
1-2-6 その他の常識 ・・・ 20
1-3 電源とグランドのノウハウ ・・・ 22
1-3-1 グランドと誤動作 ・・・ 22
1-3-2 電源の問題とパスコン ・・・ 24
1-4 回路図に描いていないこと ・・・ 26
1-4-1 部品の配置と実装方法 ・・・ 26
1-4-2 明確に描かれない配線 ・・・ 26
1-4-3 部品の特性や種類 ・・・ 27
1-4-4 機構部品 ・・・ 27
1-4-5 機能やタイミング関連 ・・・ 28
1-4-6 使用環境 ・・・ 28
第2章 電子部品の知識 ・・・ 29
2-1 電子部品の使い方 ・・・ 30
2-1-1 電子部品の種別 ・・・ 30
2-1-2 電子部品の使い方のポイント ・・・ 30
2-1-3 情報の入手方法 ・・・ 31
2-2 抵抗器(レジスタ) ・・・ 33
2-2-1 抵抗器の種類 ・・・ 33
2-2-2 各種特性と使い方 ・・・ 35
2-2-3 抵抗値のE系列 ・・・ 36
2-2-4 抵抗値とカラーコード ・・・ 37
2-2-5 合成抵抗値の求め方 ・・・ 38
2-2-6 抵抗器の実装方法 ・・・ 39
2-2-7 チップ抵抗器 ・・・ 40
2-2-8 集積抵抗器(抵抗アレイ) ・・・ 41
2-2-9 可変抵抗器(ボリューム) ・・・ 42
2-2-10 半固定抵抗器 ・・・ 45
2-3 コンデンサ ・・・ 47
2-3-1 コンデンサの回路図記号 ・・・ 47
2-3-2 コンデンサの種類 ・・・ 48
2-3-3 容量値と定格電圧 ・・・ 50
2-3-4 コンデンサの並列接続と直列接続 ・・・ 51
2-3-5 コンデンサの寸法 ・・・ 52
2-3-6 コンデンサの実装方法 ・・・ 54
2-3-7 バリアブルコンデンサ(バリコン) ・・・ 54
2-4 ダイオード ・・・ 58
2-4-1 回路図記号 ・・・ 58
2-4-2 ダイオードの基本特性 ・・・ 58
2-4-3 小信号用ダイオード ・・・ 59
2-4-4 電源整流用ダイオード ・・・ 61
2-4-5 ダイオードの実装方法 ・・・ 62
2-5 トランジスタと電界効果トランジスタ(FET) ・・・ 64
2-5-1 トランジスタの種類 ・・・ 64
2-5-2 トランジスタの基本 ・・・ 65
2-5-3 トランジスタの規格表の見方 ・・・ 66
2-5-4 トランジスタの選び方 ・・・ 69
2-5-5 トランジスタの寸法と実装方法 ・・・ 69
2-5-6 電界効果トランジスタ(FET)の基本 ・・・ 70
2-5-7 電界効果トランジスタの規格表の見方 ・・・ 71
2-5-8 FETの選び方 ・・・ 73
2-5-9 FETの実装 ・・・ 74
2-6 アナログIC ・・・ 75
2-6-1 汎用オペアンプ ・・・ 75
2-6-2 オペアンプの回路図記号 ・・・ 75
2-6-3 オペアンプの基本特性と使い方 ・・・ 76
2-6-4 オペアンプの規格表の見方 ・・・ 79
2-6-6 オペアンプの選び方 ・・・ 80
2-6-7 電源用IC:3端子レギュレータ ・・・ 82
2-6-8 電源用IC:DC/DCコンバータIC ・・・ 84
2-6-9 オーディオパワーアンプ用IC ・・・ 85
2-6-10 モータ制御ドライバIC ・・・ 87
2-7 デジタルIC ・・・ 89
2-7-1 ゲート ・・・ 89
2-7-2 TTLとCMOSの違い ・・・ 91
2-7-3 デジタルICの規格表の見方 ・・・ 93
2-7-4 デジタルICの種類 ・・・ 94
2-7-5 パッケージの寸法と実装方法 ・・・ 95
2-7-6 プログラマブルIC ・・・ 96
2-8 光関連半導体部品 ・・・ 99
2-8-1 発光ダイオード ・・・ 99
2-8-2 セグメント発光ダイオード表示器 ・・・ 101
2-8-3 赤外線発光ダイオード ・・・ 105
2-8-4 光受光デバイス ・・・ 105
2-8-5 フォトインタラプタとフォトカプラ ・・・ 107
2-9 発振素子とフィルター素子 ・・・ 109
2-9-1 発振素子 ・・・ 109
2-9-2 セラミック振動子(セラロック) ・・・ 110
2-9-3 水晶振動子(クリスタル振動子) ・・・ 112
2-9-4 高精度水晶発振モジュール ・・・ 113
2-9-5 センサ ・・・ 114
2-9-6 制御用デバイス ・・・ 118
2-10 リレー ・・・ 120
2-10-1 メカニカルリレー ・・・ 121
2-10-2 半導体リレー ・・・ 123
2-11 コイルとトランス ・・・ 125
2-11-1 コイルの種類 ・・・ 125
2-11-2 トランス ・・・ 130
2-12 コネクタとソケット ・・・ 133
2-12-1 基板用コネクタ ・・・ 133
2-12-2 多芯ケーブルコネクタ ・・・ 134
2-12-3 同軸コネクタ ・・・ 134
2-12-4 ピンジャック ・・・ 135
2-12-5 ステレオプラグジャック ・・・ 136
2-12-6 DC電源用プラグジャック ・・・ 136
2-12-7 ICソケット ・・・ 137
2-13 スイッチ ・・・ 139
2-13-1 スイッチの種類 ・・・ 139
2-13-2 個別スイッチ ・・・ 139
2-13-3 デジタルスイッチ ・・・ 141
2-13-4 ロータリースイッチ ・・・ 142
2-14 その他の部品 ・・・ 143
2-14-1 スピーカ ・・・ 143
2-14-2 電子ブザー/圧電ブザー ・・・ 143
2-14-3 液晶表示装置 ・・・ 144
2-14-4 アナログメータ ・・・ 144
2-14-5 電池ボックスとプラグ ・・・ 145
2-14-6 放熱器 ・・・ 145
2-14-7 機構部品 ・・・ 145
第3章 設計の仕方の基礎 ・・・ 149
3-1 トランジスタ回路の設計法 ・・・ 150
3-1-1 トランジスタの機能 ・・・ 150
3-1-2 トランジスタのドライブ回路での使い方 ・・・ 152
3-1-3 電界効果トランジスタ(FET)の使い方 ・・・ 156
3-2 オペアンプ回路の設計法 ・・・ 159
3-2-1 オペアンプの電源供給方法 ・・・ 160
3-2-2 直流増幅回路の設計法 ・・・ 162
3-2-3 交流増幅回路の設計法 ・・・ 165
3-2-4 コンパレータ回路 ・・・ 168
3-3 デジタル回路の設計法 ・・・ 170
3-3-1 デジタル入力回路 ・・・ 171
3-3-2 デジタル出力回路 ・・・ 175
3-4 電源回路の設計法 ・・・ 182
3-4-1 独立の電源ユニットの場合 ・・・ 182
3-4-2 オンボード電源の場合 ・・・ 183
第4章 自作のノウハウ ・・・ 189
4-1 電子工作用の設計ツール ・・・ 190
4-2 回路図・パターン図の作成ツール ・・・ 192
4-2-1 回路図・パターン図作成ツール「EAGLE」の概要 ・・・ 192
4-2-2 作業環境の作成:EAGLE ・・・ 193
4-2-3 回路図の作成:EAGLE ・・・ 196
4-2-4 パターン図の作成:EAGLE ・・・ 201
4-3 プリント基板の自作法 ・・・ 207
4-3-1 用意するもの ・・・ 207
4-3-2 手順1:パターン図の作成 ・・・ 210
4-3-3 露光 ・・・ 212
4-3-4 現像の仕方 ・・・ 214
4-3-5 エッチングの仕方 ・・・ 215
4-3-6 感光材の除去 ・・・ 216
4-3-7 穴あけ ・・・ 216
4-3-8 基板の切断と仕上げ ・・・ 219
4-3-9 パターンの修正 ・・・ 220
4-3-10 部品の実装組み立て ・・・ 221
4-4 プリント基板の自作法 ・・・ 223
4-4-1 はんだ付けのノウハウ ・・・ 223
4-4-2 表面実装部品のはんだ付けの仕方 ・・・ 228
4-4-3 ケース加工のノウハウ ・・・ 233
4-4-4 加工法(切断) ・・・ 234
4-4-5 加工法(穴あけ) ・・・ 237
4-4-6 加工法(取り付け) ・・・ 242
4-4-7 配線の仕方 ・・・ 246
4-4-8 ケースの種類 ・・・ 249
4-5 測定器の使い方 ・・・ 251
4-5-1 デジタルマルチメータ ・・・ 251
4-5-2 デジタルマルチメータの使い方 ・・・ 253
4-5-3 オシロスコープの使い方 ・・・ 257
4-5-4 パソコンを利用したオシロスコープ ・・・ 261
4-6 動作チェックノウハウ ・・・ 263
4-6-1 製作後のチェック ・・・ 263
4-6-2 電源投入時のチェック方法 ・・・ 264
4-6-3 調整 ・・・ 267
第5章 製作の実際 ・・・ 269
5-1 AC電力コントローラ ・・・ 270
5-1-1 基本検討 ・・・ 270
5-1-2 組み立てに必要な部品 ・・・ 273
5-1-3 組み立て ・・・ 274
5-1-4 動作確認と調整 ・・・ 275
5-2 太陽電池を使ったニッカドバッテリ充電器 ・・・ 276
5-2-1 ニッカドバッテリ充電器の回路構成 ・・・ 276
5-2-2 部品と組み立て ・・・ 278
5-3 専用ICを使ったリチウムイオンバッテリ充電器 ・・・ 280
5-3-1 基本回路 ・・・ 280
5-3-2 回路 ・・・ 282
5-3-3 部品、組み立て、調整 ・・・ 282
5-4 実験用電源 ・・・ 285
5-4-1 基本検討 ・・・ 285
5-4-2 回路設計 ・・・ 286
5-4-3 組み立てに必要な部品 ・・・ 287
5-4-4 組み立て ・・・ 287
5-4-5 テストと調整 ・・・ 290
5-5 無線操縦ラジコン車 ・・・ 294
5-5-1 基本検討と全体構成 ・・・ 294
5-5-2 車体の組み立て ・・・ 295
5-5-3 無線送信モジュールと通信データ構成 ・・・ 296
5-5-4 受信ユニットの回路 ・・・ 299
5-5-5 受信ユニットのパターン図 ・・・ 301
5-5-6 組み立てに必要な部品 ・・・ 301
5-5-7 組み立て ・・・ 302
5-5-8 受信ユニットのプログラム ・・・ 303
5-5-9 動作テストと調整 ・・・ 307
5-6 ラジコン送信機 ・・・ 309
5-6-1 ラジコン送信機の構成 ・・・ 309
5-6-2 ジョイスティックの使い方 ・・・ 309
5-6-3 無線通信フォーマット ・・・ 311
5-6-4 ラジコン送信機の製作 ・・・ 312
5-6-5 組み立てに必要な部品 ・・・ 313
5-6-6 組み立て ・・・ 314
5-6-7 送信ユニットのプログラム ・・・ 315
5-6-8 動作テストと調整 ・・・ 319
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