「シュミットトリガ回路」の解説(4)

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2019年12月22日 更新

4-4.反転型シュミットトリガ回路による発振回路の構成

反転型シュミットトリガ回路(ヒステリシスインバータ)とCR回路の時定数を使って、方形波を発振回路を構成する方法について説明します。

4-4-1.発振回路の構成と発振周波数

反転型シュミットトリガ回路とCR回路により構成した発振回路を図41に示します。また、図41の反転型シュミットトリガ回路の入力電圧vINと出力電圧vOUTの波形を図42に示します。

注:vINはコンデンサの両端電圧でもある事に注意してください。また、vOUTは図41の回路全体の出力電圧でもある事に注意してください。

図41、反転型シュミットトリガ回路とCR回路により構成した方形波発振回路
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図41、反転型シュミットトリガ回路とCR回路により構成した方形波発振回路
図42、図41の発振回路のvINとvOUTの波形
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図42、図41の発振回路のvINvOUTの波形

なお、図41の発振回路において、反転型シュミットトリガ回路は、図4の様な特性を持っていると仮定しています。

図4(再掲)、反転型シュミットトリガ回路の入力電圧VINと出力電圧VOUTの関係
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図4(再掲)、反転型シュミットトリガ回路の入力電圧VINと出力電圧VOUTの関係
この図において入力電圧はVIN、出力電圧はVOUTと、大文字で始まる変数を使っています。一方で、図41や図42では入力電圧はvIN、出力電圧はvOUTと、小文字で始まる変数を使っています。これは、本サイトでは時間的に変化する電圧や電流には小文字、時間的に変化しない電圧や電流には大文字の変数を使うルールに従っているからです。図4のVINVOUTは、図41および図42におけるvINvOUTと、それぞれ同じ電圧を表していると考えてください。

図42において、vOUTVHになっている区間では、反転型シュミットトリガ回路により、vINが低い電圧であるLと認識されています。この時、コンデンサは抵抗を介して充電されています。

時刻をt、コンデンサの充電開始時刻をtCとすると、充電中のvINは、初期電圧がVTHLで、充電終止電圧(無限大の時間充電状態で放置した場合の最終的なコンデンサの電圧)がVHで、時定数がCRである事から、式(7)で求まります。(図43参照)

vIN=VH−(VHVTHL)exp(ttCCR) ・・・ (7)

注1:式(7)を求める前提として、反転シュミットトリガ回路の入力インピーダンスが十分高く、反転シュミットトリガ回路の入力端子には電流が流れないという事を仮定しています。

注2:式(7)の"exp"は、底がネイピア数e指数関数を表しています。

図43、コンデンサ充電時のvINの時間変化
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図43、コンデンサ充電時のvINの時間変化

図41の発振回路では、vINVTLHにまで上昇すると、反転型シュミットトリガ回路の出力電圧がVLに変化します。この事により充電動作が終わって、放電動作が始まります。この時の時刻をtDとすると、t=tDおよびvIN=VTLHを式(7)に代入しても成立するはずなので、式(8)が成立します。

VTLH=VH−(VHVTHL)exp(tDtCCR)
tDtC=CR logVHVTHLVHVTLH ・・・ (8)

注:式(8)の"log"は、自然対数を表しています。

tDtCは、図42の充電時間TCを表しています。よって、充電時間TCは式(9)の様に求まります。

TC=CR logVHVTHLVHVTLH ・・・ (9)

次に、コンデンサが放電中に起こる出来事について考えます。

図42において、vOUTVLになっている区間では、反転型シュミットトリガ回路により、vINが高い電圧であるHと認識されています。この時、コンデンサは抵抗を介して放電されています。

コンデンサの放電開始時刻をtD(前述の充電が終了する時刻と同じ)とすると、充電中のvINは、初期電圧がVTLHで、放電終止電圧(無限大の時間放電状態で放置した場合の最終的なコンデンサの電圧)がVLで、時定数がCRである事から、式(10)で求まります。(図44参照)

vIN=VL+(VTLHVL)exp(ttDCR) ・・・ (10)
図44、コンデンサ放電時のvINの時間変化
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図44、コンデンサ放電時のvINの時間変化

図41の発振回路では、vINVTHLにまで低下すると、反転型シュミットトリガ回路の出力電圧がVHに変化します。この事により放電動作が終わって、充電動作が始まります。この時の時刻をtC'とすると、t=tC'およびvIN=VTHLを式(10)に代入しても成立するはずなので、式(11)が成立します。

VTHL=VL+(VTLHVL)exp(tC'-tDCR)
tC'−tD=CR logVTLHVLVTHLVL ・・・ (11)

tC'−tDは、図42の放電時間TDを表しています。よって、放電時間TDは式(12)の様に求まります。

TD=CR logVTLHVLVTHLVL ・・・ (12)

図41の回路の発振周期Tは、充電時間TCと放電時間TDの和ですから、式(13)が成立します。

T=TC+TD ・・・ (13)

この式に式(9)式(12)を代入すると、発振周期Tは式(14)の様に求まります。

T=CR(logVHVTHLVHVTLH+logVTLHVLVTHLVL) ・・・ (14)

発振周波数fは、発振周期Tの逆数ですから、式(15)の様に求まります。

式(15) ・・・ (15)

4-4-2.74HC14を用いた発振回路

反転型シュミットトリガ回路として74HC14を用いた場合の発振回路について説明します。

74HC14を用いた場合の発振回路の回路図を、図45に示します。

図45、74HC14を用いた発振回路
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図45、74HC14を用いた発振回路

VCCは電源ラインを表しています。この回路は2~6Vの電源電圧で動作します。

C2は電源ラインの電圧を安定化するためのパスコンです。

R1とC1の値は参考値です。これらの値を変える事で、発振周波数を変える事ができます。この図の通り、R1が10kΩでC1が1000pFの場合は、100kHz前後で発振します。発振周波数の計算法については後述します。

74HC14には、反転型シュミットトリガ回路が6個内蔵されていますので、"1/6 74CH14"という表記になっています。同一パッケージ内で使用しない反転型シュミットトリガ回路が残る場合は、それらの入力ピンをVCCまたはGNDに接続してください。

R2は、図17のバウンス・チャタリング除去回路におけるR3と同様に、電源をOFFにした時に74HC14の入力端子にC1の電荷が流れ込む事による電流を制限するための抵抗です。この抵抗の働きについては、前のページのコラムをご覧ください。なおR2の抵抗値は、原理的には発振周波数には影響しませんが、おおむね1kΩの値を使ってください。

この回路の発振周波数を計算するには、2つの閾値、VTLHVTHLの値が必要です。そこで、東芝デバイス&ストレージ株式会社製のTC74HC14APの日本語データシートから、DC特性の部分を引用したのが図46です。

図46、TC74HC14のDC特性
図46、TC74HC14のDC特性
この表は、東芝デバイス&ストレージ株式会社製のTC74HC14APの日本語データシートから、DC特性の部分を引用したものです。

図46で、VPと書いてあるのが、このページの変数でいうと、VTLHに相当します。また、図46のVNVTHLに相当します。

図46には、VCCの電圧が2V、4.5V、および6.0Vの場合について、VTLHVTHLの値が記載してあります。

74HC14は5Vまたは3.3Vの電源電圧で使う事が多いと思われるので、それらの電圧に比較的近い4.5Vのケースで、発振周波数を考察してみます。

表3に、電源電圧が4.5Vの場合のVTLHVTHLの値を示します。この表は、図46の一部を転載してまとめたものです。

表3、電源電圧が4.5Vの場合の74HC14のVTLHVTHL
最小値 標準値 最大値
VTLH[V] 2.3 2.7 3.15
VTHL[V] 1.13 1.6 2.0

VTLHVTHLには、最小値と標準値と最大値が規定されていますが、まず標準値のVTLH=2.7[V]、およびVTHL=1.6[V]の条件で、発振周波数fを計算してみます。なお、74HC14の場合は、VL=0[V]、VH=VCC(VCCはVCC電源の電圧)とみなせますので、これらの値も使って計算します。

VCC=4.5[V]で、VTLHVTHLが標準値のそれぞれ2.7[V]、1.6[V]の場合の発振周波数は、式(16)の様に求まります。

式(16-1)式(16-2)式(16-3) ・・・ (16)

ここで、C1はコンデンサC1の容量を表しており、R1は抵抗R1の抵抗値を表しています。

VCC=4.5[V]の場合は、偶然ですが、時定数C1R1の逆数がちょうど発振周波数になります。

参考:厳密にいうと、時定数C1R1の逆数の約0.99983倍が発振周波数になりますが、抵抗値や静電容量の許容誤差が通常1%以上ある事を考えると、時定数の逆数が発振周波数になると考えて問題ないでしょう。

VTHLVTLHには個体差がありますが、この個体差が発振周波数にどの程度影響するかを見積もってみましょう。

最悪値設計を心掛けるなら、一番悲観的な状況を考えなければいけませんので、VTHLVTLHの値が、最も発振周波数を下げる方向にバラつく場合と、最も発振周波数を上げる方向にバラつく場合の、2つのケースについて考えなければいけません。

ヒステリシスが一番大きい場合、すなわち、VTLHが最大値の3.15Vとなり、VTHLが最小値の1.13Vとなる場合に、一番コンデンサの充電や放電に時間がかかり、発振周波数が最も低くなると考えられます。この時の発振周波数は式(17)の様に求まります。

式(17-1)式(17-2)式(17-3) ・・・ (17)

この様に、VTHLVTLHの値を標準値で計算した場合の52%の発振周波数になります。

今度は逆にヒステリシスが一番小さい場合、すなわち、VTLHが最小値の2.3Vとなり、VTHLが最大値の2.0Vとなる場合について考えます。この場合は、コンデンサの充電や放電が最短時間で終わるため、発振周波数が最も高くなると考えられます。この時の発振周波数は式(18)の様に求まります。

式(18-1)式(18-2)式(18-3) ・・・ (18)

この様に、VTHLVTLHの値を標準値で計算した場合の3.74倍の発振周波数になります。

これらの計算から分かる様に、74HC14は閾値の個体差が大きく、それが発振回路の発振周波数に大きく影響します。発振周波数の精度が必要な用途には、図45の発振回路を使用する事はできません。

また、発振周波数の精度を上げるために抵抗やコンデンサに高精度の物を使う様に工夫しても、周波数精度が悪い事の一番の原因が74HC14にあるため、あまり意味がありません。

ただ、図45の発振回路は、部品数が少なく、確実に発振するために、とりあえず確実に発振する発振回路が必要な場合は重宝します。

参考:水晶発振子を使った発振回路は、発振周波数の精度がいいというメリットはありますが、基板の配線の引き回しがまずかったり、発振回路の抵抗やコンデンサの値の選定が不適切だと、発振しなかったり、異常発振したりするというデリケートさがあります。その点、74HC14で発振回路を組むと、抵抗やコンデンサの値が少々不適切な値でも(発振周波数が目的の周波数からずれるものの)発振しますし、基板の引き回しも、水晶発振子を用いた発振回路ほどには、工夫する必要がありません。

VCC=2[V]とVCC=6[V]の場合についても、同様の方法で、VTHLVTLHが標準値の場合と、発振周波数が最も低くなるヒステリシスが最大の場合と、発振周波数が最も高くなるヒステリシスが最小の場合について、発振周波数を計算してみました。計算結果を表4に示します。

なお、表4には、発振周波数fを式(19)の形式に表した場合の、αの値だけを記しています。またこのαを、ここでは相対発振周波数と呼ぶ事にします。

表4VCC=2[V]、4.5[V]、および6[V]の場合の相対発振周波数αの値の範囲
VCC
[V]
相対発振周波数α
(最低)
相対発振周波数α
(標準)
相対発振周波数α
(最高)
2 0.35
0.81
4.98
4.5 0.52
1.00
3.74
6 0.51
1.23
3.73
f=α・1C1R1 ・・・ (19)

表4をグラフにすると、図47の様になります。

図47、電源電圧VCCと相対発振周波数αの関係
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図47、電源電圧VCCと相対発振周波数αの関係

このグラフを見ると、電源電圧VCCが上昇するにつれ、相対発振周波数αの標準値が上昇する傾向がある事が分かります。

ブレッドボードラジオというサイトのシュミットインバータによる発振回路というページでは、図45のタイプの発振回路について、色々な解説や実験が行われています。この中で、VCC=3[V]とVCC=5[V]の2種類の電源電圧で発振周波数を比較している部分があります。それによると、VCCを5Vから3Vに下げると、発振周波数が8割弱にまで下がるという実験結果が出たようです。この実験結果は、実験によらず理論から求めた図47のグラフの標準値の線(黒い線)とおおむね傾向が一致しています。

図47からは、理論的に最悪値設計をした場合に、周波数が標準値から大きくずれる可能性がある事が分かります。特に、発振周波数が標準値より最高で6倍以上に高くなる可能性がある点(VDD=2[V]におけるαの最高値と標準値の比は4.98÷0.81≒6.15)には十分な注意が必要です。

次のページでは、バイポーラトランジスタによるシュミットトリガ回路の構成法について説明します。

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