2020年05月10日 | 公開。 |
この記事では、論理回路の基礎を勉強したい人向けに、基本論理回路の内、タクトスイッチを使ったAND回路とOR回路の作り方の説明をします。
AND回路やOR回路は、ICを使って構成するのが一般的ですが、ICの中身はブラックボックスで、動作するのを観察しても、どの様な原理で動作しているのか分かりません。そこで、あえてタクトスイッチを使ってこれらの回路を作る事で、原理的な理解を目指します。
また、ブレッドボードを使って、回路を短時間で試作する方法を習得する事も、目的にしています。
なおこの記事は、同志社大学理工学部電気工学科・電子工学科で2020年度春学期に開講している電気基礎実験Ⅱの、テーマC・電子回路入門III(論理回路)の講義と連動しています。
電気基礎実験IIの授業でこの記事を読んでいる人は、次の2つの記事も読んでください。
この記事は電子工作の初心者を対象に書いているため、基本的な用語の説明から始めます。
信号線の電圧が、ある低い電圧と、ある高い電圧の2種類の電圧に制限され、他の電圧を使わないような電子回路を2値論理回路といいます。
実は、実用化している論理回路の大半は2値論理回路なので、単に論理回路というだけで2値論理回路を指す事が多くあります。この記事には「論理回路を作る」というタイトルが付いていますが、扱うのは2値論理回路だけです。
2値論理回路で扱う2種類の内、低い方の電圧を0と表し、高い方の電圧を1と表記する事がよくあります。この様な表記法を正論理といいます。
参考:低い方の電圧を1と表し、高い方の電圧を0と表す負論理という方法もありますが、この記事では、より一般的な正論理を使って議論を進めます。
多くの場合、低い方の電圧0は0Vに設定し、高い方の電圧1は電源電圧と同じに設定します。
例えば公称電圧が1.5Vの単3アルカリ電池を3本、直列接続した電源で動く2値論理回路があるとすると、0は0V、1は4.5V(=1.5×3[V])に設定するのが一般的です。
参考:この記事で製作するAND回路とOR回路は、実際に単3アルカリ電池を3本直列接続した電源を使って動作し、かつ、低い方の電圧0を0Vに、高い方の電圧1を4.5Vに設定しています。
何らかの信号処理を行う2値論理回路の中で、NOT回路、AND回路、OR回路の3つは最も基本的な物です。この記事では、これらの内、AND回路とOR回路について作り方を説明します。
この節では、まずAND回路について説明します。
AND回路は、論理積回路とも呼ばれます。AND回路の回路記号を図1に示します。
この図は2入力の正論理のAND回路の回路記号です。3入力以上のAND回路や負論理のAND回路もありますが、この記事では扱いません。3入力以上のAND回路や負論理のAND回路については、用語集のAND回路の項目をご覧ください。
AND回路には、2つの入力端子、1つの出力端子、および2つの電源端子の、合計5つの端子があります。
正電源端子は、直流電源の+側に接続する端子です。なお、電源の+側の端子(あるいはその端子の電圧)を、しばしばVCCと表記します。
負電源端子は、直流電源の−側(基準電圧側)に接続する端子です。電源の−側の端子(あるいはその端子の電位である基準電位)を、しばしばGNDと表記します。
AND回路には2つの入力端子があります。2値論理回路ですから、それらの入力端子には、0(多くの場合0V)または1(多くの場合VCC)の電圧が、それぞれ入力されます。ここでは、2つの入力端子の入力電圧を、x0およびx1という変数で表す事にします。
出力端子は、AND回路の2つの入力電圧x0およびx1に応じて変化する電圧を出力する端子です。2値論理回路ですから、出力端子には0または1の電圧が出力されます。ここでは、出力電圧をyという変数で表す事にします。
AND回路においては、2つの入力電圧x0およびx1と出力電圧yの関係が、表1の様な対応になります。
入力 | 出力 | |
---|---|---|
x0 | x1 | y |
0 | 0 | 0 |
0 | 1 | 0 |
1 | 0 | 0 |
1 | 1 | 1 |
表1の様に、2値論理回路の入力電圧と出力電圧の関係を表形式で表わしたものを、真理値表といいます。
表1の真理値表を見れば分かる様に、y=1になる条件(必要十分条件)は、x0=1でかつx1=1である事です。この「かつ」という言葉を英訳するとandとなる事から、表1の真理値表に従って動作する回路をAND回路と呼びます。
表1の真理値表に示したAND回路の入力電圧と出力電圧の関係を数式で表すと、"・"という演算子を使って式(1)の様になります。
なお、多くの2値論理回路では、回路を構成する全ての部品の電源端子を、共通の電源に接続します。この場合、部品1つ1つに電源端子(正電源端子と負電源端子)を書いて、それらを電源につなぐ線を描くのは、冗長になります。そこで、図2に示す様に、電源端子を省略した回路記号を使う事がしばしばあります。
電源端子を省略してあっても、電源端子を電源に接続しなくてもいい訳ではないので、注意が必要です。あくまでも表記を省略しているだけです。
次に、OR回路について説明します。
OR回路は、論理和回路とも呼ばれます。OR回路の回路記号を、図3(電源端子を明示的に描いた物)および図4(電源端子を省略した物)に示します。
OR回路の真理値表を表2に示します。
入力 | 出力 | |
---|---|---|
x0 | x1 | y |
0 | 0 | 0 |
0 | 1 | 1 |
1 | 0 | 1 |
1 | 1 | 1 |
この真理値表を見れば分かる様に、y=1になる条件は、x0=1またはx1=1である事です。この「または」という言葉を英訳するとorとなる事から、表2の真理値表に従って動作する回路の事をOR回路と呼びます。
注:ここで、x0=1とx1=1の両方が成立する場合も、「x0=1またはx1=1」が成立しているとみなしている事に注意が必要です。x0=1とx1=1のどちらか一方のみが成立している時に「x0=1またはx1=1」が成立しているとみなして、x0=1とx1=1の両方が成立する場合は「x0=1またはx1=1」が成立しないと考える場合(表3の真理値表を参照)は、XOR回路(排他的論理和回路)という、別の回路になります。
入力 | 出力 | |
---|---|---|
x0 | x1 | y |
0 | 0 | 0 |
0 | 1 | 1 |
1 | 0 | 1 |
1 | 1 | 0 |
表2の真理値表に示したOR回路の入力電圧と出力電圧の関係を数式で表すと、"+"という演算子を使って式(2)の様になります。
タクトスイッチ(タクタイルスイッチ、タクティルスイッチ)とは、プッシュスイッチ(押しボタンスイッチ)の一種です。
プッシュスイッチというのは、機械的なスイッチの一種で、指で押すためのボタンが付いている物の事を指します。写真1に、プッシュスイッチの例を示します。
どちらのスイッチも筐体(ケース)に取り付ける様に設計されています。
左側の黄色いスイッチは、アーケードゲームの筐体に取り付けるスイッチです。
プッシュスイッチは、多くの場合、ボタンを押している時にだけ接点が閉じる(ONになる)ように作られており、ボタンを押していない時は、接点が開きます(OFFになります)。この様に、ボタンを押している時だけONになるプッシュスイッチの回路記号を図5に示します。
しかし、プッシュスイッチの中には、ボタンを押している間にOFFになり、ボタンを押していない時はONになる物もあります。この様なプッシュスイッチの記号を図6に示します。
写真1のプッシュスイッチは、筐体に取り付ける様に設計されています。
一方で、電子基板に直接半田付けして使う、小型のプッシュスイッチもあります。この様なプッシュスイッチを特に、タクトスイッチと呼びます。タクトスイッチの例を写真2に示します。
右側のタクトスイッチは、リード線(脚)が4つありますが、2つずつショートしていますので、電気的には2端子部品です。またこのスイッチは、半田付けの際に基板の部品面を下にしても、スイッチが脱落しない様に、4つのリード線に曲げ加工がしてあります。
ブレッドボードで使うには、リード線がまっすぐで2本の左側のタイプのタクトスイッチの方が使いやすいため、この記事では左のタクトスイッチを使用します。
ブレッドボードは、2.54mm(0.1インチ)間隔で、格子状に部品のリード線やジャンパ線などを差し込める穴が開いた基板の事で、このブレッドボードを使うと、部品を基板に半田付けする事なく、短時間で簡単に回路の試作をする事ができます。ブレッドボードの写真を写真3に、ブレッドボード上で試作回路を組んだ例を写真4に示します。
なお、ブレッドボードの仕組みや使い方などについては、用語集のブレッドボードのページに詳しく載っていますので、そちらをご覧ください。
次のページでは、AND回路とOR回路の回路図や、それらの回路を組むのに必要な部品について説明します。