前回、アクティブスピーカー(アンプ内蔵スピーカー)を作った話をしましたが、今回は、新たに作ったアクティブスピーカー2号機の話をします。
今回作ったのは、ビンに入ったアクティブスピーカーです。(下の写真をクリックすると拡大します)
1号機はエンクロージャーの補強が大変だった
参考までに、前回紹介したアクティブスピーカー1号機の写真を示します。
1号機は、3.6リットルのタッパに10cmのフルレンジユニットを入れて作りました。結構いい音が出ているのですが、ケースの加工に結構苦労しました。
タッパはフタがシリコン樹脂で、本体がポリプロピレンと、やわらかい素材でできています。また、肉厚もそれほどありません。スピーカーのエンクロージャーとして使うと、かなり振動します。
そのため、特定の周波数(固有振動数)で共振し、その周波数で、音が強調されてしまったり、逆に音が小さくなったり、歪が増えたりと、色々厄介な事が起こりました。この共振現象は、70~300Hz程度の比較的低い周波数で顕著に発生しました。
WeveGeneという、パソコンのヘッドホン出力をファンクションジェネレータにするソフトを使って、正弦波を、周波数を少しずつ変えながら再生すると、特定の周波数でエンクロージャーが共振するのが分かります。
タッパには6面ありますが、違う形状の面はそれぞれ違う周波数で共振します。また、同じ面でも、複数の周波数で共振します。違う共振周波数では振動モードが違い、面内の節(振動しない部分)と腹(良く振動する部分)の分布が異なります。
共振した状態でタッパを触ると、特定の面が顕著にビリビリと振動しているのが分かります。
共振する面が見つかったら、指で面に触って腹(良く振動している部分)をさがし、その部分が振動しない様に補強すると、共振の影響が低減します。私は、次の写真の様に、15mm幅、2mm厚のアルミ平板をネジ止めして補強しました。
補強しても、別の周波数で共振が起こるのですが、一つ一つ共振をつぶしていく内に音質は改善していきます。
またフタの部分は、シリコン樹脂というかなりやわらかい素材でできているので、単に補強するだけでなく、2mm厚の塩化ビニル板に替えてしまい、フタの開け閉めができる様に、元のフタの縁の部分だけを利用する様にしました。これにより、音質がかなり改善しました。
木材やMDFの類は使わないという方針でエンクロージャーを作ったのですが、100円ショップで売っている6mm厚のMDFを使った方が、補強がない時の音質が良かったと思います。
ガラスでエンクロージャーを作るというアイディア
ある時、このスピーカーの話をしていて、「補強が大変だった」と言ったら、相手から「ガラスでエンクロージャーを作ったら?」と言われました。
ガラスは堅い素材ですので、ペコペコのタッパよりは振動しにくそうです。ネットを探していたら、ワインボトルを加工してスピーカーのエンクロージャーにした人のブログ記事が見つかりました。
このブログでは、ワインの瓶の底を切り取って、そこにバッフル板を張り、とてもおしゃれなスピーカーに仕上げてらっしゃります。音もいいみたいです。
ただ、ガラスは固すぎてノコギリでは切れません。このブログの記事では、リューターにダイヤモンドのビット(先端工具)を付けて、ビンを切ったり、ビンに穴を開けたりされていました。
私はリューターもダイヤモンドビットも持っていますので、先ほどのブログと同じ加工をする事はできます。しかし、電子工作の初心者向けの本に解説記事を載せるために、私はスピーカーを作っているので、なるべく特殊な工具を使わずにガラスのエンクロージャーのスピーカーを作れないか考えていました。
ガラスを加工せずにエンクロージャーにする方法
100円ショップで使えそうな素材がないか、探していた時にひらめいて作ったのが、今回作成した2号機です。
大きなフタの付いたビンを216円で買ってきて、フタの部分にスピーカーユニットも、アンプの基板も、電池も、全て固定しました。これなら、ガラスでできた本体に一切加工をせずにアクティブスピーカーが作れます。ちなみに、フタは、おそらく0.2mm厚くらいの薄い鉄板でできていました。
アンプは1号機と全く同じ回路構成で、ビンの口を通る様に、小型の基板に組み上げました。
フタの直径(外径約110mm)が小さすぎるので、1号機で使った10cmのスピーカーユニット(FOSTEX P1000K)は使えず、6.5cmのP650Kを使いました。
P650Kは、P1000Kよりも小口径な分、最低共振周波数が高く、音圧レベルが低いのが気になりましたが、P1000Kはビンのフタからはみ出てしまうので仕方ありません。
最低共振周波数[Hz] | 音圧レベル[dB/W(1m)] | |
P650K | 157 | 84 |
P1000K | 82 | 88 |
2号機の音質の印象
作って音を聞いてみたところ、ビンでできた2号機の音は、タッパを補強する前の1号機よりは共振が少なく、癖の少ない、落ち着いた音になっていました。製作の手間をかけずに、共振の少ないエンクロージャーを作るという点では成功した様です。ビンを手で触ってみても、明らかに1号機より振動が少ないです。
ガラスは、プラスチックよりは音響的な損失が小さい(振動のエネルギーが熱エネルギーになかなか変わらず、減衰しにくい)素材なので、Q値の高い共振をするかも知れないと心配していたのですが、音を聞いたところ、共振の影響はそれほどありませんでした。ガラスの肉厚が厚くて丈夫だったのが良かったのかも知れません。
低音はP1000Kより出にくいのですが、これは物理的に仕方ありません。低音が出ないといっても、タブレットPC内蔵スピーカーで直接聞くよりは、はるかに低音が出ています。むしろ、小型の密閉型スピーカーとしては、頑張っていると言えるかも知れません。
問題は音量です。P650KはP1000Kより音圧レベルが4dB低いのですが、これは、同じスピーカーで聞いた時に、アンプの出力のワット数が約40%に減ったのと同じ音量しか出ないという事です。(逆にP650KでP1000Kと同じ音量を得ようとすると、アンプの出力電力を2.5倍にしなければなりません) P1000Kで作った1号機と聞き比べると、P650Kで作った2号機の方が、明らかに音量が小さく感じます。
DELL製のノートパソコンで聞いた場合は、パソコンのボリューム設定を大きくすれば、2号機でも実用的な音量が出ていました。ただ、タブレットPCの場合は、内蔵アンプの最大出力電圧が低いらしく、最大音量にしても、音量が少し物足りません。
どうやらアンプの利得が足りていない様子です。最大出力は電源電圧でおおよそ決まってしまいますが、利得は回路定数を少し調整すれば、上げる事ができます。今度時間がある時に、P650K用に利得を調整したいと思います。
大きなビンを使えばフタにP1000Kを取り付ける事ができるのではないかと思って調べてみたのですが、梅酒を漬けるのに使う様な大型のビンは、本体の直径や高さが大きくなるものの、フタの直径はほとんど変わらないみたいです。
ビンを使ったアクティブスピーカーは、エンクロージャーやスピーカーユニットはそのままで、アンプのゲインとバスブースト回路をP650K用に最適化して仕上げたいと思います。