昨日は大きな地震があったので驚きました。私が住んでいる地域では、震度5弱だったようです。
地面が揺れている最中に、2011年の東日本大震災の事を思い出しました。ただ今回は直下型地震で、私の住んでいるところから震源がそれほど遠くない事もあり、揺れを強く感じた割には地震の規模が小さかった様です。東日本大震災の様には大規模の被害が出ていない様です。
私の受けた影響と言えば、子供が通っている小学校が休校になった事や、マンションのエレベーターが止まって不便になった事ぐらいです。仕事に使うパソコンや撮影機材は無事でした。
とはいえ、今回の地震で亡くなっている方も複数おられます。亡くなった方々のご冥福をお祈りいたします。
ところで、最近はサイトやブログの更新がお休みになっていましたが、その間、アクティブスピーカー(アンプ内蔵スピーカー)の製作にはまっていました。
乾電池駆動で室内で持ち運びができるアクティブスピーカーで、そこそこ音質がいい物を作りたいと思って、設計、製作を行っていました。試作品がほぼ完成し、性能的にも納得できる物ができました。ひと段落したので、ブログ記事でも書こうかと思った次第です。
元々アクティブスピーカーを作ろうと思ったきっかけは、今書いている電子工作の入門書に製作記事を載せたかったからです。電子工作の方法や電子回路の動作原理の理解のための教材として、ある程度実用的な作例を考えていました。
色々考えた結果、オーディオアンプなら、部品数を抑えつつ、品質のいい物を作れそうだと判断しました。それに、半田付けだけでなく、ケース加工の説明の教材としても使いやすそうです。
オーディオアンプを作るといっても、専用のアンプICに周辺部品を付けただけでは、さっぱり動作が理解できた気にならないと思うので、ディスクリート構成にする事は必須です。
また、どうせアンプを作るなら、少し直径の大きな、低音が再生できるスピーカーと一体型にしてしまうと、実用性が高そうです。私はタブレットPCで映画やアニメ、ドラマなどを楽しむ事が多いのですが、内蔵スピーカーで音声を再生すると、低音がないスカスカの音になる点が不満でした。
そこで、次の様にコンセプトを定め、アクティブスピーカーを設計しました。
- 製作を楽しんだ後、日常生活で使える様な作品にする事。
- 低予算で、読者が気軽に作れる作品にする事。
- ある程度動作原理が理解できる様に、専用ICというブラックボックスを使わない事。ディスクリート設計にすると、部品の交換(特にコンデンサ)による音質の改善ができるので、より製作者が能動的に製作物に関与できる度合いが増すという点でもよい。
- 乾電池で動作する様にする事。乾電池を電源にする事により、電源回路が簡略化される。また、電源をコードレスにする事で、家の中で持ち運びがしやすくなる。
- 100円ショップで単3アルカリ電池が4本セットで販売されている事を考慮し、単3アルカリ電池4本以内で動作する様にする事。
- スマホやタブレットPCの低音再生能力を補う事に重点を置き、低音の出るスピーカーユニットを使う事。
- モノラルスピーカーにする事。ステレオよりも持ち運びがしやすく、低予算で音質がいい物が作れる。それに、製作の手間や設置場所の確保のしやすさの点でも有利である。
- 元々タブレットPCの低音再生能力の低さが今回の製作のきっかけになっているので、音楽鑑賞にたえうる音質を達成する事。
- 音質を大きく犠牲にしない範囲で、消費電力の低減を行う事。電池交換の煩雑さを減らすのに有効。
- エンクロージャー(スピーカーボックス)は、電池交換できる構造にする事。
- エンクロージャーには木材や合板、MDFの類を使わない事。MDFは100円ショップで入手でき、音質の点でも優れた素材ではあるが、スピーカー以外の電子工作の作品は、プラスチックケースやアルミケースに収める場合が多く、木工の説明にページを割くのは、あまり有益ではないとの判断。
- できるだけ秋月電子1か所で部品を入手できる様にする事。部品入手に色々な販売店を利用すると、送料が製作費に占める割合が無視できなくなるため。また、電子部品の通販に慣れていない読者に配慮するため。
- 無調整で設計通りの特性が出る様にする事。
- 単3電池4本以内という制約内では、アンプの出力を大きくするのが難しいので、アンプは出力信号の振幅を大きく取れる様な設計にする事。
- 小さな出力のアンプでも十分な音量が得られる様に、出力音圧レベル(能率)の高いスピーカーユニットを使う事。
- Web上の製作記事や雑誌の記事ではなく、一般の書籍に載せる作例である事を考慮し、5年後、10年後の読者にも製作が行えるように、簡単にディスコン(販売中止)にならない部品(あるいは代替品が見つけやすい部品)のみで構成する事。
この様なコンセプトで作ったのが今回の作品です。作ったアクティブスピーカーの写真をお見せします。
見た目は悪いですが、安い部品ばかりを使って、十分な音質を確保できました。その魅力にすっかり夢中になり、書籍の作例のためという当初の目的を忘れて、設計・製作に没頭してしまいました。
私は写真撮影も趣味にしていますが、今回アクティブスピーカーを作ってみて、オーディオというのは、写真よりもはまってしまう要素が多い様に感じました。
写真を趣味にする場合、俗にいう「レンズ沼」という、お金がどんどんなくなっていくトラップがあります。
レンズ交換式カメラ(一眼レフ、ミラーレス一眼)を売っているメーカーは、どこでもたいてい、とても安くて写りの良い単焦点レンズ(ズームのできないレンズ)を発売しています。私の使っているカメラのメーカーであるペンタックスを例に挙げると、DA35mmF2.4ALやDA50mmF1.8 がそれにあたります。それらを購入して写真を撮ると、カメラとペアで発売されているズームレンズ(キットレンズ)よりも、かなり本格的な画質の写真が撮れます。こういう、安価で高画質のレンズを「撒き餌レンズ」と呼びます。
撒き餌レンズでいい写真が撮れて、味を占めると、カメラユーザーは、さらなる高画質を求めて、どんどん高級レンズを買い求める様になります。これが、恐ろしい「レンズ沼」です。
ただ、私の様な貧乏人の場合、お金のなさがレンズ沼にはまってしまうのにブレーキを掛けてくれます。10万円以上もするカメラレンズの新製品紹介のニュース記事は一応読むのですが、「良さそうなレンズだけども、高くて私には関係なさそうだ」といつも思います。
ところが、オーディオの場合、お金がなくても、ないなりに、知恵と工夫で楽しめてしまいます。アンプやスピーカーは自作が可能ですし、色々な作例がネット上にあり、参考にする事もできます。今や、電子部品はネット通販で、世界中から買い集める事もできます。この様に低予算で楽しめる事から、予算の制約がブレーキとして働かず、深い沼にはまってしまいます。その沼に、私はもう片足を突っ込んでしまいました。
これがカメラのレンズなら、光学設計は独学で習得できても、趣味でレンズを磨くというのは、非現実的です。研磨機などの設備投資が必要であるため、レンズは趣味で作れる範囲を超えています。
今回、電池駆動のアンプを4種類くらい設計して、SPICE(回路シミュレーションソフト)で、性能の比較をしました。その結果から、一番コンセプトにマッチするアンプを製作しました。今回作ったアンプの回路図をご紹介します。(下の図をクリックすると、大きく表示されます。)
この回路はQ4のTTA004B(PNPトランジスタ)とQ5のTTC004B(NPNトランジスタ)のコレクタが接続されているのが特徴です。Q4とQ5は共にエミッタフォロワ回路として電流増幅しているのですが、Q4を流れたバイアス電流をQ5のバイアス電流に再利用して、消費電流を抑えています。この回路では、Q4とQ5のコレクタ・エミッタ電圧が常時1V以下になるという特殊な条件の動作となり、特性上は若干不利になりますが、トランジスタ1個分のバイアス電流を節約できるのが利点です。
この工夫の甲斐もあり、製作したアンプの無入力時の消費電流は15mA程度と低く抑えられました。そのうち5mA程度はパイロットランプとして使っているLEDが消費しますから、アンプが消費するのは約10mAです。
アクティブスピーカーを例えばパソコンの外部スピーカーとして使う場合、使用時間の大半が無音状態という事は珍しくありませんから、無音時の消費電流をいかに抑えるかは重要と考えています。
また、Q4とQ7、Q5とQ6のトランジスタに同じ型番の物を使用する事と、Q4とQ5にコンプリメンタリのトランジスタを選択するにより、カレントミラー回路と同様の原理で、Q4、Q5で構成される電流アンプと、Q6、Q7で構成される最終段の電流アンプのバイアス電流が、ほぼ同じ(4mA程度)になります。
Q4、Q5のバイアス電流はR11~R14で決まるのですが、通常調整の必要なQ6、Q7のバイアス電流も、無調整で自動的にQ4、Q5とほぼ同じ値に決まります。
その結果、AB級アンプとしては消費電流の低さ重視の、B級アンプに近い低バイアス電流が、無調整で実現できます。無調整というのは、電子工作初心者にはありがたいはずです。
ところで、B級アンプに近い動作をするのは音質的には不利ですが、負帰還を掛ける事でカバーしています。実際に音を聞いたところ、音楽鑑賞に十分な低歪を実現できている事が確認できました。
スピーカーユニットとしては、自作用スピーカーユニットのメーカーとして有名なFostex製の、P1000Kを選択しました。P1000Kは実売価格約1,600円の低価格な10cmのフルレンジユニットで、低音再生能力の高さ(f0=82Hz)と出力音圧レベルの高さ(88dB/W(1m))を、低価格ながらもある程度両立しているのが特徴です。
注:通常、低音を十分に再生できる様にすると、出力音圧レベルが下がるという、相反関係になります。
実際に音を聞いてみると、高域の伸びには少々物足りなさを感じるものの、中低域には十分なボリュームがあります。特に、タブレットPCでは再生できないウッドベースの音が綺麗に再生できる様になりました。これがきっかけで、柄にもなくジャズを聴くようになりました。
また、P1000Kには、同一形状で、インピーダンスや最低共振周波数などの仕様も同じで、高域再生能力が向上したFE103Enという上位機種が用意されています。P1oooKの音に不満を持つようになったら、スピーカーユニットをFE103Enに取り換えて楽しむ事もできるのが魅力です。取り付け穴の位置や寸法が両者で共通なので、スピーカーユニット交換の際に、エンクロージャーを作り直す手間もありません。
なお、今回作成したのはAB級アンプですが、設計した中にはD級アンプもあり、現在作りたくてウズウズしています。ただあまり自作オーディオにはまりすぎると、正常な社会生活を送れなくなるので、必死に自分を抑えています。
ちなみに、これから作りたいD級アンプの回路は、次の様な物です。汎用ロジックICのみで構成してあります。ただ、電圧利得が6dBしかないので、実際に制作する場合には、この前にOPアンプの電圧増幅段が必要になると思います。
今回の作品は書籍のために作った物ですが、また機会があったら、ネット上で回路構成などについて説明したいと思います。