MΩは「メガオーム」?それとも「メグオーム」?

電気抵抗の単位で”MΩ”というのがありますが、これを「メガオーム」と読む人と、「メグオーム」と読む人がいます。私の印象では、年配の(元)技術者の方に、「メグオーム」と読まれる方が多いみたいです。

今回は、「メガオーム」と「メグオーム」の2つの読みのどちらが正しいのか、調べてみました。

1メガオーム?1メグオーム?

結論

“MΩ”を「メガオーム」と読んでも、「メグオーム」と読んでも、問題ないようです。あえて言うなら、現在は「メガオーム」と読む方が好ましいと思われます。以下、理由を説明します。

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ウィキペディアの解説

分かりやすい解説が、ウィキペディアのオームの解説ページの倍量・分量単位の項に載っていました。

以下、ウィキペディアを引用します。

電気・電子の分野で一般的に用いられる倍量・分量単位は、マイクロオーム、ミリオーム、キロオーム、メガオーム、ギガオームである。英語圏において、キロオーム(kiloohm)、メガオーム(megaohm)について接頭辞の最後の母音が欠落した「キルオーム」(kilohm)、「メグオーム」(megohm)の形で表記・発音されることがあり、NISTはこれらを容認している。同様に、ギガオーム(gigaohm)についても非公式に「ギグオーム」(gigohm)と表記・発音されることがある。

日本においては、かつてはメグオームの読みが使われていたが、若年の技術者を中心にメガオームという読みが広まっており、年配の技術者がこれを誤りと指摘する場面がしばしば見られる。法令では、「メガオーム」という正式な表記が、電気通信事業法などにある。

英語圏において、megaohm(メガオーム)がmegohm(メグオーム)と表記・発音される場合があるそうです。それだけでなく、kiloohm(キロオーム)までkilohm(キルオーム)と表記・発音される事があるようです。

注:megohmの発音は「メグオーム」より「メゴーム」の方がより英語に近いと思います。同様にkiloohmの発音は、「キルオーム」より「キローム」の方がより英語に近いと思います。

この英語圏での発音の習慣を取り入れて、日本では”MΩ”を”メグオーム”と昔は読んでいたようですが、一方で、”kΩ”を”キルオーム”と読んでいる人や書籍などを見たことがありません。”メグオーム”を使うなら、”キルオーム”も使わないと一貫性がないように、私には思えます。

NISTによる「メグオーム」への言及

ところで、ウィキペディアの解説には、NISTの話が出てきました。NISTとはアメリカ国立標準技術研究所の事で、ウィキペディアによると、

アメリカの技術革新や産業競争力を強化するために、経済保障を強化して生活の質を高めるように計測学、規格、産業技術を促進すること

を公式任務とする公的機関です。

このNISTがメグオーム(megohm)について述べている部分を探したら、NISTの公式サイトNIST Guide to the SI, Chapter 9: Rules and Style Conventions for Spelling Unit Namesというページにおいて、次のような表記を見つけました。

Reference [6] points out that there are three cases in which the final vowel of an SI prefix is commonly omitted: megohm (not megaohm), kilohm (not kiloohm), and hectare (not hectoare). In all other cases in which the unit name begins with a vowel, both the final vowel of the prefix and the vowel of the unit name are retained and both are pronounced.

参考書籍[6]で、SI接頭語の最後の母音が通例省略されるケースが次の3つある事を指摘している。すなわち、メガオーム(megaohm)ではなくメグオーム(megohm)、キロオーム(kiloohm)ではなくキルオーム(kilohm)、および、ヘクトアール(hectoare)ではなくヘクタール(hectare)の3つのケースである。単位名が母音で始まる他のすべてのケースでは、接頭語の最後の母音も、単位の母音も残され、それら両方が発音される。

注:下の和訳は私が行ったものです。

SI接頭語というのは、単位を10のべき乗倍にするための、p(ピコ)とか、n(ナノ)とか、μ(マイクロ)とか、m(ミリ)とか、k(キロ)とか、M(メガ)とか、G(ギガ)とか、T(テラ)の類の事です。

NICTによると、SI接頭語の最後が母音で終わっており、単位の名前の最初も母音の場合で、SI接頭語の最後の母音が省略されるのは、メグオーム(megohm)、キルオーム(kilohm)、ヘクタール(hectare)の3つのケースだけだそうです。

参考1:単位を100倍にする接頭語ヘクトは、hectoではなくhectとつづると思っていました。綴りがhectなので100アールの事をヘクタールと呼ぶのは自然だと思い込んでいたんですが、実際はhectoとareを引っ付けると、ヘクトアール(hectoare)になるんですね。それが通例ヘクタール(hectare)と呼ばれているんだそうです。ヘクタールは日本にも定着しています。

参考2:SI接頭語の最後の母音が省略されるのがメグオームとキルオームとヘクタールの3つだけと書いてあるので、例えば”kA”はキルアンペア(kilampere)ではなくキロアンペア(kiloampere)と表記・発音されるんでしょうね。

先のNISTの文章に通例(commonly)と書いてあった事から分かる様に、「メガオームがメグオームと表記・発音される場合が多い」と、アメリカでの現状を追認しているだけで、「必ずメグオームと表記・発音しなさい」という規則ではありません。

KOAの解説

KOAはチップ抵抗を作っている日本のメーカーです。KOAのサイトの抵抗値の表示方法というページに、<MΩの読み方>というコラムがあり、次のような解説が載っていました。

抵抗値などでは桁を表す記号としてk(キロ)、M(メガ)、G(ギガ)などがありますが、抵抗値でMΩはメガオームとは読みません。英語ではohmなど単位の語が母音で始まる場合、接頭辞の末尾の母音が除される(Mega~ではMeg~になる)という規則があり、MΩはMeg-ohmとなり「メグオーム」と読みます。

この解説では「MΩはメガオームとは読みません」と断言していますが、これはいい過ぎだと思います。

ただ、この解説がKOAの公式サイトに載っている事から、KOA社内では「メグオーム」の発音で統一しているのかもしれないと推測できる気がします。

JISによる規定

KOAのサイトに、堂々と「メガオームとは読まない」と書いてあったので、念のためJIS(日本工業規格)を調べました。日本のメーカーなら、JISに従うべきだろうと思ったからです。

JIS Z 8203:2000において、「国際単位系 (SI) 及びその使い方」というタイトルで、日本の工業分野で使う国際単位系(SI)について取り決めてあります。それによると、”M”は「メガ」と読み、”Ω”は「オーム」と読むルールの記載はあるものの、それらを組み合わせて”MΩ”とした時に、「メグオーム」と読まなければならない(あるいは、読む事がある)とは記載されていませんでした。

つまり、JIS的には「メガオーム」が正しいのです。これは、JISの他の文書で「メガオーム」という表記が使われている事からも確かめられます。

JIS C 1302:2014において、絶縁抵抗計についての規格が規定されているのですが、この文書の表3に、「絶縁抵抗の単位はメガオームとし、記号はMΩを使う」との旨の説明があります。

習慣的にメグオームを使う年配者がいるものの、JISに則るならメガオームが正解だという事でしょう。

SI単位系という言葉は間違いだったの?(余談)

これは、”MΩ”の読み方を調べている過程で気が付いた事なのですが、国際単位系の事を「SI単位系」と呼ぶのは間違いだそうです。

ウィキペディアの国際単位系のページには、

SI は国際単位系の略称であるため「SI 単位系」というのは誤り

と書いてあります。SI自体が「国際単位系」という意味なので、SI単位系だと「国際単位系単位系」という意味になって、二重表現になるらしいのです。

SIのSは、フランス語のSystèmeの略で、「系」という意味ですから、確かに二重表現になっています。

先ほど紹介したJIS Z 8203:2000(国際単位系 (SI) 及びその使い方)でも、確かに「SI単位系」でなくて、「SI」と表記しています。(高校で、「SI単位系」と習った気がするんだけどなぁ・・・)

確かに「SI単位系」という言葉は間違っているらしいのですが、できれば「SI単位系」という言葉も併用できる、緩やかなルールにしてほしかったです。

その理由のひとつですが、二重表現は、必ずしも間違いとは限りません。外来語と日本語の複合語なら、なおさらです。

例えば「金閣寺」を英訳する場合、通常”Kinkakuji temple”としますが、jiはtempleと同じ意味ですから、二重表現となります。しかし、通常英語圏の人には、jiがtempleを意味するという知識はありませんから、別に違和感がないと思います。

「排気ガス」も日本語と外来語の複合語で二重表現になる例です。二重表現が必ず悪いのなら、「排気ガス」は全部「排気」に改める必要があります。

二つ目の理由として、SIはたった頭文字2文字ですから、意味が想像しにくく、また、他の意味でSIと略される用語がある(例えばSystem Integrationも略せばSI)点も挙げられます。

その点「SI単位系」だと、「単位の話だな」と言葉から意味が想像できます。先ほどの”Kinkakuji temple”の場合も、単に”Kinkakuji”なら、英語圏の人には、お寺の名前だと分かりにくいのではないでしょうか。

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