私は、某私立大学の電子工学科・電気工学科で、実験の授業をしているのですが、ある実験テーマのレポートで、多くの学生が間違った考察をしてくるのに困っていました。間違いの内容が共通していたので、最初、誰かが書いた間違いのあるレポートを、他の多くの学生が写したのだろうと思っていたのですが、他人のレポートを写した割には、問題の部分以外は似ていないレポートが多かったので、長い間不思議でした。
ところがある日、偶然に、学生たちが共通の間違いをする原因に気づきました。今日はその話を書きます。
原因はネット上の情報を参考にした事だった
ある日、Googleを使って調べ物をしていた時に、実験に出てくる回路の名前を検索してみました。そうすると、1番目にヒットしたページに、学生達のレポートに載っていたのと同じ、間違った説明が載っていたのです。
学生達は、それぞれ独自にGoogleで検索し、間違った記述のある共通のページを見つけて、そのページを参考にレポートを書いていたのでした。他人のレポートを写したのではないらしい学生が、他の学生たちと共通の間違いをする理由がここにありました。
学生達にレポートの指導をする際に、間違いを指摘し、「どうしてこの記述が間違いだとおもう?」と質問をするのですが、ポカーンとしている学生が多くいます。どうやらGoogleで見つけたページの中から、関係ありそうな部分を、内容をよく理解せずに丸写ししているようです。内容を理解せずにレポートを書いているので、質問されると、全く答えられないのです。
ネット上の情報を利用して対外的な文書を作成する際に気を付けてほしい事
実験レポートを含め、何らかの報告書を作成する場合、自分の知っている情報だけで作成できる事はまれで、例えば書籍などを読んで関連情報を集める事になります。
最近は書籍でなくても、インターネット上に色々専門的な情報があり、それらを使うと時間とお金をかけずに情報を集める事ができます。
しかし、インターネットは便利でも、大きなデメリットがある事を忘れないでください。インターネット上の情報は、ほとんどの場合、第3者による査読や校正を受けていないのです。ネットに書かれている事は、世間で(あるいはその業界で)広く受け入れられている話ばかりではなく、特定の筆者の独自の考えが含まれているかもしれないのです。平たく言うと、間違った話が、ネット上にはあふれています。
Wikipediaも個人が投稿した記事の寄せ集めなので、記述の正しさが担保されている訳ではありません。ただし、間違った記述があると、議論が行われる可能性がある分、まだましな方だと思います。
個人の運営しているサイトやブログに載っている事は、私のやっている「しなぷすのハード製作記」を含め、記事が公開される際に、第3者の目で内容をチェックされていません。当然間違いや独自研究などが含まれる可能性が高く、そこに書かれている事は、無条件には信用するべきではありません。
個人サイトや個人ブログの内容を参考にするなら、その人の経歴や他の記事を読んでみて、信用できそうな人かどうかを判断する必要があります。例えば論文を書いている人が、自分の書いた論文の要点をブログで説明しているような場合は、ブログ記事を信用しても比較的安全な気がします。
学生によっては、Yahoo!知恵袋を参考文献として書いてくる事があります。試しにYahoo!知恵袋を見てみると、色々な実験に関する質問が書き込んであり、それらに対して色々な回答が付いています。実際にいくつか質問と回答を読んでいみると、かなり間違った内容の回答も散見されます。ベストアンサーが付いている回答でも、そのベストアンサーは、十分な知識のない質問者が付けたに過ぎないので、間違っている事が結構多くあります。
Yahoo!知恵袋の場合は、回答者の経歴を調べようと思っても、無理なので、回答の信ぴょう性を確認する手段が非常に限られています。
Yahoo!知恵袋などの信ぴょう性が低いサイトでヒントを得た場合は、そこに載っている内容の裏を取る必要が必ずあります。専門書などに同じ記述があれば、かなり信ぴょう性が高くなります。その場合、レポートには参考文献としてYahoo!知恵袋を書かずに、専門書の方を書いてください。
Yahoo!知恵袋などの信ぴょう性の低いサイトを参考文献に挙げると、良識が疑われてしまいます。極限すると、「トイレの落書きにそう書いてあったので、先ほどいった事は正しい」と主張しているようなものなのです。
レポートの参考文献にネットの記事は認めるべきか
レポートの参考文献としてネット上の記事を挙げる事を許すかについて、他の先生にも意見を聞いたのですが、大半は「書籍のみを参考文献に認めるべきだ」と考えられているみたいでした。ただ、一部の先生からは「このご時世だから、インターネットで調べごとをする事も多くなったし、学生レポートくらいなら、ネットの記事を参考文献に認めてもいいのでは?」という意見もいただきました。
私は、学生レポートくらいなら、参考文献にネット上の記事を認めてもいいと考えていますが、その場合は、記事の内容を自分の頭で十分に理解した上で、おかしい所がないか考え、さらに、著者の経歴なども参考に、信ぴょう性を確認する事を学生に指導しています。
ネットの記事を参考文献にする事には、先に話した様に、記事の信ぴょう性が担保されていないという問題以外に、記事の内容が予告なく書き換わったり、記事が削除されたりする可能性がある問題もあります。
書籍でも版が新しくなって記述が変わる事もありますし、絶版になる事もあるのですが、参考文献の欄に書名だけでなく、何版かも書いておけば、該当の版の本を図書館で見つけて内容を確認する事ができます。一方でインターネット上の記事の場合は、過去の記事のトレースができない事が多いのです。
理系の学生は実習やレポートで忙しい事は分かっていますが、ネット上の情報は参考程度にして、書籍で裏を取る習慣をつける事をお勧めします。
最後に
今回は、ネット上の情報をうのみにして報告書を書くべきではないという話をしました。
「ネット上には間違った情報が多い」というのは常識になっているのだとは思うのですが、「ひょっとしたら以外に妄信している人が案外いるのかも知れない」とも思い、この記事を書きました。
本来は、学生たちがレポートに、どの様な間違った考察を書いてくるのかについて、具体的に書こうと思ったのですが、記事が長くなってきたので、次回に書くことにします。