Arduinoとホットプレートを使ったリフロー装置(1号機)の製作(4)

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2016年09月12日 「Arduinoとホットプレートを使ったリフロー装置の製作」から「Arduinoとホットプレートを使ったリフロー装置(1号機)の製作」へ改題。

参考:この連載で説明している温度制御装置の改良版について書いた記事もあります。あわせてご覧ください。

4-4.基板の加熱・冷却工程

基板にクリーム半田を印刷し、その上に部品を載せたら、いよいよ今度は基板全体を加熱して半田を溶融し、その後冷却します。

半田の融点以上に温度を一旦上げ、その後常温まで冷却するのですが、ただ単に加熱して冷却するだけでは、なかなかうまく半田付けできません。確実に半田を溶融し、ブリッジ(隣のランドなどに半田が広がって、ショートすること)などの半田付け不良を回避し、かつ部品や基板に熱的なダメージを与えないためには、それなりの温度制御が必要となります。

横軸に加熱開始からの時間、縦軸に基板の温度を取って、加熱・冷却の過程の温度変化をグラフに表わしたものを、温度プロファイル(temperature profile)と呼びます。半田の種類によって融点が違うため、理想的な温度プロファイルも変わってきますが、例えば、スズ96.5%、銀3.0%、銅0.5%で融点が217℃の鉛フリー半田なら、理想的な温度プロファイルは、おおよそ次のグラフに示すようなものになります。ただし、この温度プロファイルはあくまでも例で、リフロー炉の種類や、基板に搭載されている部品の種類などにより、最適な温度プロファイルは若干変化します。工業的にリフローによる部品実装をしているメーカーでも、温度プロファイルはある程度試行錯誤で決めているようです。

図1、鉛フリー半田のリフローの際の温度プロファイルの一例
図1、鉛フリー半田のリフローの際の温度プロファイルの一例

このグラフを見ると分かるように、温度プロファイルには次の5つのステージ(段階)があります。

  1. .加熱ステージ1
  2. 予熱ステージ
  3. 加熱ステージ2
  4. リフローステージ
  5. 冷却ステージ

加熱のステージが2つあるため、便宜的に最初の方を「加熱ステージ1」、2番目を「加熱ステージ2」と表記して区別していますが、この呼び方は一般的なものではありません。

それぞれのステージについて、簡単に説明します。

加熱ステージ1では、常温だった基板を加熱していきます。

予熱ステージでは、150℃~200℃程度の半田の融点未満の温度で、一旦加熱を止めるか緩めます。加熱を止める(あるいは緩める)ことにより、基板の高温部から低温部への熱の移動が起こり、基板の温度が均一になります。言うまでもなく、基板内で大きな温度ムラがあれば、半田付けはうまくできません。しかしながら、ヒーターの配置に偏りがあったり、熱容量の大きな部品が付いている部分とそうでない部分があったりして、基板全体をムラなく温度上昇させる事は困難です。そのため、予熱ステージで温度のムラを緩和します。

加熱ステージ2では、基板を再加熱して、半田の融点より高い温度にします。

リフローステージでは、半田の融点より高い温度を維持し、半田を溶融します。このステージでは部品や基板に熱のストレスを強く与えるため、最高の温度や、一定以上の温度の持続時間の範囲などが部品メーカーや基板メーカーにより、規定されています。その規定を守らないと、部品や基板が破損したり性能劣化したりします。

冷却ステージでは、基板を室温の空気にさらすことにより、基板を冷却します。

以上の5つのステージを経て、半田が溶融し、再凝固することで、半田付けが行われます。

4-5.アマチュアが使える簡易リフロー炉について

工業的には、リフロー炉と呼ばれる、ヒーターが付いた細長いトンネルの中をベルトコンベアで基板を運ぶ装置を使い、多くの基板を連続して半田付けしていきますが、非常に設置面積が大きく、かつ高価なので、個人で所有するのは無理です。そこで、調理器具などを使って簡易型のリフロー炉を作る試みが、アマチュアの間で行われてきました。アマチュアの使うリフロー炉はオーブントースターを使うものと、ホットプレートを使うものの2種類が一般的なようです。中にはアイロンを上下ひっくり返してリフローに使っている人もいますが、危険ですし、かなり小型の基板しか扱えないので、ここでは考えない事にします。

色々なサイトを調べたところ、オーブントースターを使う方法は、コンベクション方式(熱風をファンで強制循環させる方式でコンベック方式とも呼ぶ)のオーブントースターでないと、良い結果が出にくいようです。

オーブントースターは、熱伝導ではなく、赤外線(IR)による熱放射を利用して物を過熱します。電子部品の中には、例えばLANコネクタやUSBコネクタなどのように大きな金属でできているため、熱容量が大きくて、かつ赤外線を反射してしまう部品があります。このような部品は、赤外線の放射だけではなかなか加熱できず、それが大きな温度のムラの原因になるようです。それでもコンベクション方式のオーブントースターなら、熱風を強制循環させて、対流によっても加熱しますから、温度ムラがかなり抑えられるみたいです。

コンベクション方式のオーブントースターは入手性があまり良くなく、しかも高価なので、私はホットプレートを簡易リフロー炉として使っています。

ホットプレートなら2千円程度の物もあり、また、熱伝導により物を暖めるので、赤外線放射で暖める場合に比べると、金属光沢の部品でも良く暖まるというメリットがあります。

さらに付け加えるなら、オーブントースターの場合は、通常タイマーが付いていて、設定した時間を越えると自動的に運転が停止するようになっている事が多いのですが、このタイマーが、リフローの際に邪魔になります。ホットプレートにはタイマーが付いていません。

ただし、ホットプレートには、基板の片面にしか部品を実装できないというデメリットがあります。(オーブントースターの場合は、上下のヒーターの内、上側の赤外線放射を強く受けるように基板を配置することで、基板の上側の面だけを半田の融点よりも高温にでき、なおかつ部品を既に半田付けした面を下にして基板を置くことができます) また、ホットプレートでは基板を裏面から加熱するため、本来加熱したい表面よりも裏面の温度が高くなり、赤外線で加熱する場合よりも基板の熱ストレスが大きくなります。

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4-6.ホットプレートを用いたリフローの方法

それでは、ホットプレートを用いたリフローの方法について説明します。

用意するのは家庭用ホットプレート、熱電対を用いた温度計、リフローしたい基板、温度計測に使うダミーの基板、ポリイミドテープです。

まず、ホットプレートについて説明します。リフローに使うホットプレートに絶対必要な条件は、使う半田の融点よりも最低でも20℃以上高い温度まで加熱できる能力です。鉛フリー半田を使うなら、最低でも240℃、できれば250℃以上に加熱できることが好ましいです。また、蓋はガラス製の透明なものだと、基板の様子を観察しながら作業できるので、非常に便利です。プレートは平らで、均一に加熱できる事が必要となります。

私は、YAMAZENのGN-1200(T)という、1200Wのヒーターが付いたホットプレート(正確にはグリル鍋らしい)を使っています。230℃での調理ができるとの表示がある製品ですが、これはナベに汁物を入れたときでも保証できる値らしく、基板を加熱すると240℃は軽く超えます。

写真40、ホットプレート
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写真40、ホットプレート

温度計は300℃程度までの温度を遠隔的に測定できるものが必要です。放射温度計というのもありますが、基板表面の温度をピンポイントで正確に測るのは困難で、かつガラス蓋を通して温度を測ると不正確なので、熱電対(ねつでんつい)を用いることになります。熱電対にも色々な種類がありますが、K型熱電対という種類が、入手製が良く、安価で、半田付けの温度範囲をカバーしています。

私は最初、次の写真に示す、LinkmanのLDM-81Dという、K型熱電対による温度測定ができるデジタルマルチメータを利用していました。K型熱電対が付属して3,000円未満の、お手軽な4000カウントのデジタルマルチメータです。温度測定範囲は-20℃~1000℃で、最小分解能は1℃と、半田付けの温度制御には十分な性能を持っています。ただし、デジタルマルチメータ本体は1000℃まで測る能力がありますが、熱電対のシース(保護材)が多分そこまでの耐熱性能はないので、炎の温度などを測らない方が無難です。

余談ですが、このデジタルマルチメータを電圧計、電流計、抵抗計などとして使った場合、精度は十分ですが、測定値の変化に表示が追従するのが少し遅めなのと、大電流を長時間測っていると内蔵のポリスイッチによる過電流保護が働いてしまう点が少し使いにくいです。(それでもコストパフォーマンスは十分)

写真41、LDM-81D
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写真41、LDM-81D

現在では、次回に紹介する予定の自作の温度制御装置を使って温度制御をしていますが、この温度制御装置にもK型の熱電対を使っています。(詳しくは後述)

リフローしたい基板については説明は不要だと思いますが、それ以外に、温度測定用のダミーの基板が必要になります。

温度測定する際は、基板の上面の温度を測りたいので、基板上面に熱電対を貼り付けなければなりません。しかしなら、半田付け前の部品が載っている基板に熱電対を取り付ける事は、現実には無理なので、半田付けしたい基板と同じ材質、同じ厚さのダミー基板を別に用意し、それに熱電対を貼り付けます。熱電対の貼り付けには、高熱に強いポリイミドテープ(カプトンテープとも言う)を使います。

写真42、温度計測用の熱伝対とダミー基板
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写真42、温度計測用の熱伝対とダミー基板

私は、厚さ1.6mmのガラスエポキシ基板をリフローする場合には、秋月電子のATMEGA168/328用マイコンボードをダミー基板として使っていますが、適度な大きさで、余っている基板があれば、何でもいいです。

実際にリフローをする際には、換気の容易な場所で作業してください。半田の融点よりも少し低い温度で、クリーム半田のフラックスが一斉に気化します。これはかなりの悪臭がするガスで、おそらく健康にも悪いので、リビングなどでリフロー作業をすると、後悔します。

私の場合、晴れた日にはベランダでリフロー作業をしています。また、雨の日には仕方なくバスルームで換気扇を回しながら作業をしています。

また、やけどにも十分注意して作業してください。何かにつまずいて、ホットプレートの上にこける事がないように、周囲を整理してから作業しましょう。

作業の手順としては、まずリフローしたい基板の横に熱電対を貼り付けたダミー基板を並べて置き、次にガラス蓋をして、その後は温度を計測しながら温度調整ダイヤルを手動で調整することになります。(下の写真では、基板の様子を見やすいように、蓋を開けた状態で撮影していますが、実際には蓋をしてから加熱を始めてください)

写真43、ホットプレートに置いた基板
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写真43、ホットプレートに置いた基板

リフローステージまで、図1のような温度プロファイルができる様に温度調整したら、ヒーターを切って、ガラス蓋を開け、基板を冷却します。

温度調節の際には、170~180℃位の温度を60~120秒キープする点と、最高温度を240℃以下にする点、高温状態を長く続けない点などに気をつけてください。

ホットプレートのリフローに関しては、スイッチサイエンスが、とても参考になる(そして萌える)動画をYoutubeで公開していますので、是非ご覧ください。

この動画では、ホットプレートに付いている温度調整ダイヤルの表示をあてにして、目標の温度プロファイルを作ろうとしています。しかしながら、この方法ではバイメタルサーモスタットによる簡易的な温度制御になってしまいます。調理器具に良く使われるバイメタル方式(熱膨張を利用する方式)のサーモスタットは、温度に20~30度のブレが出てしまい、あまり精度のよい温度制御はできません。そのため、この方法では、歩留まりが高い半田付けが、なかなかできません。

それでは、熱電対で温度を測りながら、温度調整ダイヤルを操作すれば、うまく半田付けできるのかといえば、慣れない内は、失敗が多いです。ホットプレートと熱電対からなる制御系では、数十秒(私のケースでは30秒程度)ものむだ時間があるため、ダイヤル調整にコツが要るのです。(ひょっとしたら、赤外線で加熱する方式なら、むだ時間が少ないかも知れません)

むだ時間とは、制御信号に変化を与えてから、制御対象が追従し始めるまでの時間の事です。ホットプレートによるリフローの場合で言えば、ヒーターに掛ける電圧を変化させてから、熱電対の温度表示が追従を始めるまでの時間です。ヒーターに電圧をかける→ヒーターが暖まる→ホットプレートが暖まる→基板が暖まる→熱電対が暖まる→表示温度が上がるという、多くのステップを経て温度変化が検出され始めるため、ヒーターの電圧が変化しても、数十秒は温度に変化が現れないのです。

このむだ時間があるために、目的の温度に達した時点でヒーターを切るのでは、しばらく温度は上昇を続け、その後ピークを打って、低下してきます。この様に、制御したい値(温度)を一旦超えてから戻って来る現象をオーバーシュートといいます。

図2、むだ時間を考慮せずに温度制御した場合に発生するオーバーシュート
図2、むだ時間を考慮せずに温度制御した場合に発生するオーバーシュート

オーバーシュートが、特にリフローステージで発生すると、温度が上限を超えてしまい、部品や基板を傷めてしまいます。実際に、私は基板を何枚も溶かしてしまいました。

慣れてくると、目的の温度に達する少し前にヒータを止めて、オーバーシュートを発生させないこともできますが、職人芸の色彩が濃く、また、半田付けしている間は常に緊張していなければなりません。

そこで、ホットプレートの温度管理をマイコンに任せることができれば、リフローによる半田付け作業がかなり楽になります。これが今回、Arduinoを用いてホットプレートの温度制御をしようと思った動機です。

以上、色々と書きましたが、実は、いわゆるブレークアウト基板と呼ばれるような、小型の基板の場合、基板に元々温度ムラができにくいため、ある程度ラフに温度を制御しても比較的にうまく半田付けできます。(スイッチサイエンスの動画でも、小さな基板を半田付けしていました) 逆に、パソコンのマザーボードみたいな大型基板の場合はリフロー時の温度管理がシビアになりますが、アマチュアでマザーボードを設計する人はいないでしょう。この記事では、一辺がせいぜい10cm強程度の大きさの基板をリフローすることを前提として書いています。

次のページから、いよいよ本題の簡易リフロー炉の温度制御装置の話になります。

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